強権政治の次はどうなるのか、国民や国際社会は注視している。長引く内戦を終わらせ、危機的な人道状況を改善につなげるために、スムーズに政権移行し、国内の安定化を急がねばならない。
シリア反体制派が8日、首都ダマスカスを掌握した。アサド政権は崩壊し、父の代から50年以上続いた独裁体制が幕を閉じた。
アサド大統領と家族は、後ろ盾だったロシアに亡命した。ロシア外務省は、アサド氏は内戦当事者らと交渉した結果、辞任を決断したと発表した。
内戦の影響は深刻だ。2011年の中東民主化運動「アラブの春」はシリアにも波及したが、アサド氏は武力弾圧を徹底し、内戦が始まった。約40万人が死亡し、約600万人が周辺国に逃れるなど、人道危機は深まった。
ロシアやイラン勢力の支援があり、最近は政権側が優位にあった。しかし、ロシアはウクライナ侵攻で、イランと親イラン民兵組織ヒズボラはイスラエルとの交戦で、それぞれ弱体化していた。
反体制派を主導する過激派「シリア解放機構(HTS)」が先月27日に攻勢を開始し、北部や南部の要衝を次々と制圧、一気に首都を攻略した。
国連人道問題調整室(OCHA)によると、戦闘激化で少なくとも37万人が避難した。政権崩壊を内戦終結に導かねばならない。
気になるのは、HTSの前身が国際テロ組織アルカイダ系組織であることだ。国連や米国はテロ組織に指定している。
HTSのジャウラニ指導者は、米テレビのインタビューに「独裁ではなく制度に基づく統治を求めている」と述べ、穏健な姿勢を示しているが、反体制派の統治能力は未知数だ。
00年に父の死去に伴い大統領に就任したアサド氏は、秘密警察を張り巡らせ監視社会を継承し、異論を封じてきた。
父子2代にわたり弾圧が続いた半世紀だった。バイデン米大統領は「罪のない大勢の人々を拷問し、殺害した」と改めて非難した。
国民の間には「抑圧者からの解放だ」と喜びの声がある一方で、反体制派による弾圧を恐れる人もいる。ジャウラニ氏には早急に、国民の不安を払拭する具体的な行動が求められる。
国内の安定に向けては、平和的な手段で、混乱のない政権移行も欠かせない。
シリア北東部には反体制派と距離を置くクルド人勢力の支配地域もあり、主導権争いが活発化する可能性がある。
過激派組織「イスラム国」(IS)の拠点も多く、政権崩壊の混乱に乗じて活動を強める兆候があったとして、米軍が空爆した。
中東情勢がこれ以上混迷しないよう、日本を含む国際社会は、しっかりと働きかけていきたい。