働き控えの解消につながるか不透明だ。企業に負担を求める案も場当たり的で仕組みを複雑にしかねない。年金制度全体の抜本的な見直しを検討すべきだ。

 厚生労働省は、会社員に扶養されるパートら短時間労働者が厚生年金に加入する年収要件「106万円以上」を撤廃する方針だ。

 5年に1度の年金制度改革の中で見直され、来年の通常国会での法案提出を目指す。

 現状では、従業員数51人以上の企業で週20時間以上働き、年収が106万円以上になると、厚生年金に加入しなければならない。

 加入による保険料負担を避けようと働くことを控える「106万円の壁」が、労働者不足を招いているとされてきた。

 厚労省は労働時間など四つの加入要件のうち年収と従業員数の二つを撤廃し、パートが壁を気にせずに働ける仕組みだとしている。

 従業員5人以上の個人事業所も厚生年金に加入するようにする。現行の製造業など17業種から全業種に拡大する。

 実現すれば新たに200万人の加入が見込まれ、年金財源の確保にはプラスになる。

 加入すると年金受給額が増え、病気や出産で休職した際の補償も手厚くなるなどの利点はある。

 しかし、保険料負担で手取りが減るため「老後より今の資金が必要」などの不満が出ている。

 手取り減対策として厚労省は、加入者と企業で折半する保険料のうち、加入者が払う一部を企業が肩代わりする案を示している。割合は企業が決め、全額負担は認めない。肩代わりを受けても将来の年金額は変わらないとする。

 企業側には負担増となるため、経済界からは小規模事業者への影響を懸念する声が上がる。

 肩代わりが時限的な特例というのも半端で、企業によって対応が異なり、複雑化が懸念される。

 政府は昨年10月から106万円を超えた従業員の保険料を肩代わりした企業に補助金を出しており、公平性の観点からも疑問だ。

 気になるのは「週20時間以上働く」との要件を残したことだ。

 最低賃金の引き上げに伴い、週20時間以上働くと年収106万円を上回る地域が増え、要件が形骸化しているとの見方があるためだが、これにより保険料負担を避けようと労働時間を抑える「時間の壁」が生じる可能性もある。

 社会保険料を巡っては「130万円の壁」への対応も焦点だ。

 扶養されているフリーランスの個人事業主など、厚生年金への加入要件を満たさない人が年収130万円を超えると、扶養から外れ、国民年金と国民健康保険の保険料負担が生じるが、手取り額が減る上、老後の給付は増えない。

 誰もが安心できる年金制度としていくには、小手先の改革では追い付かない。