民主主義を脅かしたにもかかわらず、それを正当化するのでは、国民感覚と著しく懸け離れ、支持されるはずがない。弾劾可決は当然の帰結と言うほかない。

 当面の間、韓国の政情不安定化は避けられない。日本をはじめ国際社会への影響を見据え、混乱を最小限にとどめてもらいたい。

 韓国国会は、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の「非常戒厳」宣言は憲法違反だとして、野党が提出した弾劾訴追案を可決した。尹氏は職務停止となり韓悳洙(ハンドクス)首相が権限を代行した。

 戒厳令を受けた弾劾訴追案は2度目だ。1度目は尹氏が混乱をわびる談話を発表したこともあり、与党が廃案に追い込んだ。

 その上で与党は尹氏の早期退陣を求めていたが、尹氏は改めて国民向けの談話を出し「国民に危機状況を知らせ、憲法秩序を守り回復するためだった」として戒厳令を正当化した。弾劾や捜査にも立ち向かうと表明していた。

 権力維持のために手段を選ばない強権姿勢が鮮明だ。民主主義を踏みにじっておきながら、開き直るのでは、与党内で造反の動きが拡大したのは当然だ。

 今後は、憲法裁判所が罷免するかどうかを180日以内に判断する。6人以上の裁判官が賛成すれば罷免され、棄却された場合は尹氏が大統領に復帰する。

 尹氏は弾劾案可決を受け「決して諦めない」との談話を出し、憲法裁で争う姿勢を示した。

 これに対し、最大野党「共に民主党」の李在明(イジェミョン)代表は、罷免が最速で実現するよう共に闘おうと国民に訴えている。

 罷免の賛否を巡る対立が激化するのは必至だろう。韓国国内に広がる分断の深まりが危惧される。

 非常戒厳を巡っては、弾劾訴追とは別に、検察や警察なども内乱容疑の捜査を本格化させている。

 現職大統領には不訴追特権があるが、内乱罪は例外だ。政府高官らの不正を調べる高官犯罪捜査庁も捜査を開始している。尹氏の身柄拘束の可能性が指摘される。

 既に尹氏と共謀したとされる金龍顕(キムヨンヒョン)前国防相のほか、国会に警官を投入し議員の進入を阻んだ疑いで警察庁長官とソウル警察庁長官が逮捕された。

 韓国警察のトップらが逮捕される異例の事態だ。治安をつかさどる機関のトップが不在では、国民の不安は大きいに違いない。

 米国を含む日米韓の安全保障協力への影響も懸念される。

 3国間連携は、尹氏の主導で進んだ日韓関係の改善が後押ししてきただけに、韓国国政の不安定化は不安要素になる。核・ミサイル開発を進める北朝鮮への抑止力も弱まりかねない。

 尹氏の代行をする韓首相は、バイデン米大統領と電話会談するなど代行体制を本格始動した。韓氏は野党とも対話し、混乱収拾と秩序の安定に尽くさねばならない。