ようやく始まった米海兵隊員の国外移転だが、計画に対して実行されたのはごくわずかだ。これでは沖縄の基地負担軽減がいつ実現するのか疑問だ。今後の移転が早急に進むよう日本政府は働きかけねばならない。

 中谷元・防衛相は、在日米軍再編に伴う在沖縄米海兵隊の米領グアムへの移転第1弾として、後方支援要員約100人の移転が開始されたと、沖縄県の玉城デニー知事や名護市長らに伝えた。

 移転は、沖縄の負担軽減を図るため、日米両政府が2006年に合意した、在沖縄海兵隊員のグアム移転などを柱とする在日米軍再編ロードマップ(行程表)に基づくものだ。

 12年には日米両政府が、約1万9千人いる沖縄海兵隊のうち約9千人を国外に移し、その中の4千人以上の移転先をグアムとすることなどを決めた。

 今回の100人は米軍再編で合意して以降、初めての移転で、25年中に完了させる。中谷氏は「大きな節目」と評価している。

 しかし、合意から18年もたち、100人が動くだけでは、地元から「少なすぎる」との不満が漏れるのも理解できる。

 防衛省は第2弾以降の移転時期や9千人の移転完了のめどについては、「海兵隊が計画を決めていないので示すことができない」としている。

 米軍に任せ切りではなく、日本側も積極的に移転を求めていく姿勢が必要だ。

 日本政府は、沖縄の負担軽減をアピールし、宜野湾市にある米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設への理解を得たい考えだ。

 とはいえ、ごく少数で今後の移転も未定では、目に見える負担軽減とは言い難い。

 米軍にとってグアム移転は、インド太平洋地域で軍備増強を進める中国をにらみ、兵力を分散・機動化して抑止力を強化する狙いがあるのだろう。

 ただ、沖縄を戦略的要衝に位置付け、対中国の防壁とする方針に変わりはない。南西諸島方面の防衛態勢に隙を生じさせてもならず、移転が少数にとどまったのは、慎重に計画を進めたい思惑が反映したとみられる。

 日米合意が確実に履行されていくか注視していかねばならない。

 沖縄では米兵による性的暴行事件が後を絶たない。

 米軍は問題が起きるたびに綱紀粛正を掲げるが、類似事件が頻発する状況は到底許されない。米兵への信頼が失われれば、日米安保体制の根幹を揺るがす。

 沖縄の女性からは「米兵がいなくならない限り犯罪はなくならない。移転がたった100人では安心できない」との声も出ている。

 沖縄の負担軽減を根本的に図ることを、沖縄だけではなく日本全体で考えていかねばならない。