次期米大統領に就任するトランプ前大統領が打ち出す政策が、国際情勢にどう影響を与えるのか。世界各国が注視する1年になるだろう。

 トランプ氏は20日に就任する。掲げる「米国第一主義」が保護主義を進め、国際協調や多国間主義を脅かしかねない。分断を深めないよう国際社会の結束が求められる。

 一方で、戦禍が長引くウクライナやパレスチナ自治区ガザでの戦闘終結には、トランプ氏の行動力が期待される。

 ◆信頼関係の構築急げ

 石破茂首相はいまだトランプ氏との会談日程が決まっていない。首相は昨年末の臨時国会閉会後の記者会見で「北東アジア情勢について認識を一にすることは大事だ」と述べ、会談への意欲を見せていた。

 トランプ氏が、関税強化や防衛費の負担増を求めてくるとの見方がある。

 早急に会談し、首脳同士が率直に意見交換できる信頼関係の構築が欠かせない。首相の外交手腕が試されることになる。

 ロシアと北朝鮮は軍事協力を進め、中国は軍事的な威圧行動を続けている。日本周辺の安全保障環境は厳しさを増す。

 日米韓3カ国の連携を緊密にしていかねばならないが、懸念されるのは韓国の情勢だ。

 尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は「非常戒厳」を発令したことにより、弾劾訴追が国会で可決された。

 尹氏は現在、大統領の職務権限を行使できない状態で、憲法裁判所で争う構えだ。3日には、尹氏に対する拘束令状の執行を大統領警護庁が阻止する事態も起きた。

 混乱の長期化が危惧される。韓国政治の一刻も早い正常化が望まれる。

 今年は日韓国交正常化60周年だ。尹政権で改善した両国の関係を損なってはならない。

 北朝鮮による拉致問題は、被害者とその親世代が高齢化し、一刻の猶予もない。解決のためにも日韓の協力は欠かせない。

 中国とはトランプ政権発足をにらみ、関係を安定させたい日中両国の思惑が一致する。

 石破首相は就任早々に、習近平国家主席と対面で会談した。年末には北京で外相会談も行われ、ハイレベルの往来再開に踏み出した。

 東京電力福島第1原発の処理水海洋放出を巡り、合意した日本産水産物の輸入再開の実現や、拘束された日本人の釈放など積み残された懸案の解決へつなげてもらいたい。

 ◆戦闘終結一日も早く

 トランプ氏はかねて、ウクライナ、ガザの両戦闘も「終わらせる」と豪語している。犠牲者をこれ以上増やさないためにも、大統領就任後、即座に停戦へ導く方策を示してほしい。

 武力で領土を奪うロシアの行為は許されない。戦闘が終結した後でも、ウクライナが領土を取り戻せる交渉の余地は残さねばならない。

 パレスチナでは、1期目の政権でイスラエル寄りの政策をとったトランプ氏に、警戒感が広がっている。

 公平な形で戦争終結を図れるのか。米国だけでなく、国際社会は力を合わせほしい。

 気がかりなのは、欧州で極右勢力が台頭していることだ。移民や難民の流入が続いた反動で、排外主義を掲げる政党が勢いを増している。

 昨年は、欧州連合(EU)欧州議会選で極右や右派が伸長したほか、フランスやオーストリアの国民議会(下院)選でも躍進した。

 フランスは下院選以降、政治混乱が続き、首相の交代が相次いだ。ドイツでは来月の総選挙に向けて、極右と称される政党の存在感が高まっている。

 温暖化対策は待ったなしだ。世界の平均気温は産業革命以降、既に1・1度上昇した。現状のままなら、気温上昇を1・5度以内に抑えるパリ協定の目標達成は困難だ。

 米国は、化石燃料の活用を公約しているトランプ氏の就任後に、パリ協定から離脱することが見込まれる。

 地球規模の課題解決には、各国が協調して臨まねばならないことは、言うまでもない。