長く続いたデフレから脱却し、好循環の軌道に乗せることができるかどうか。日本経済は2025年、正念場を迎える。
鍵を握るのは、本県など地方経済の動向だ。持続的な賃上げが消費の拡大を呼び、さらに企業収益の増加につながる流れを、私たちの足元でも生み出していきたい。
あらゆる物やサービスの値段は上がっているが、賃金はなかなか上がらない。現状の日本経済の課題を端的に言えばこういうことになる。
物価変動を考慮した実質賃金は昨年5月まで26カ月連続でマイナスを記録した。一時プラスに転じたものの、直近はまた3カ月連続マイナスだ。
一方で国内企業の業績は悪くはない。SMBC日興証券の集計によると、上場企業の24年9月中間決算の純利益合計額は前年同期比8・5%増の24兆6248億円だった。
◆地域金融機関に期待
業績の良い企業に今、求められているのは利益をため込むことではなく、従業員への還元を手厚くすることだ。それによって個人消費が拡大すれば、次に見えてくるのは景気の上昇だ。
関税強化を打ち出す米国のトランプ氏が今月、大統領に就任するなど世界経済の先行きには不透明感も漂う。動向を注視しながら、長く苦しめられてきたデフレから完全脱却する道を進んでいきたい。
県内企業の業績もおおむね堅調に推移し、県内景気は持ち直している。
銀行を除いた県内上場企業26社の24年8、9月中間決算は、全体の8割に当たる21社が前年同期より売り上げを増やし、15社が増益を確保した。
一方、労働団体の連合によると、24年春闘の賃上げ率は全国平均で5・10%だったが、本県(連合新潟)は4・35%にとどまっている。
本県の人口減少は進んでいる。人口流出を抑える観点からも、もう一段の賃金水準の引き上げが求められている。
本県経済の課題に起業の少なさと廃業の多さがある。創業や事業承継を支援する動きが行政にも広がっているが、期待したいのは地域金融機関の役割だ。
第四北越フィナンシャルグループ(FG)は24年9月中間連結決算で、過去最高の純利益を計上した。今後も予想される金利上昇局面は、金融機関の業績には追い風となる。
そうした環境変化を背景に、各金融機関には地元企業を育てる取り組みを強化してほしい。資金面だけでなく、コンサルティング機能を十分に発揮してもらいたい。
◆もうかる農業目指せ
インバウンド(訪日客)の少なさも大きな課題だ。
23年に本県を訪れた外国人の延べ宿泊者数は約34万5千人で、周辺の長野県約149万3千人、石川県約102万7千人には遠く及ばない。
ただ好材料はある。
昨年は新潟空港を拠点とする航空会社トキエアが運航を始め、「佐渡島(さど)の金山」は世界文化遺産に登録された。日本酒などの「伝統的酒造り」は無形文化遺産登録されている。
国内外から観光客を呼び込むチャンスだ。官民挙げて誘客活動に取り組んでいきたい。
農業を取り巻く環境が激変している。昨夏はコメの品薄感が全国的に広がり、それに伴って上昇した価格は今も高止まりしたままだ。
肥料や農薬などの高騰に苦しんできた生産者にとっては歓迎すべきことであり、一息ついたという農家も多いだろう。
ただ、高くなり過ぎれば消費者のコメ離れを招きかねないことを忘れてはならない。品薄の原因の一つとなった猛暑への対策も継続する必要がある。
県産米のブランド力、「コメ王国」の座に安住することなく、次を見据えて輸出を増やすなどの戦略を描くことが重要だ。
コメの「一本足打法」から脱却し、収益性の高い野菜や果物、花など園芸作物の比重を高めることが本県農業の構造的な課題となっている。本県はコメの産出額が全国1位だが、全体の農業産出額は14位にとどまる。
目指すべきは農業収入の増加、もうかる農業への脱皮だ。実現すれば、深刻な後継者難問題も緩和されるに違いない。
石破茂政権は地方創生に力を入れる方針だ。政府の政策もうまく活用しながら、地域の経済、農業の活性化を図りたい。