韓国の混迷が深まり、長引いていることを憂慮する。日本を含む北東アジアの安全保障にも影響を与えかねない。与野党はともに冷静な対応に努め、早急に事態を収拾させねばならない。
「非常戒厳」を発令した尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が出頭要請に応じないため、高官犯罪捜査庁(高捜庁)は内乱容疑などで拘束令状の執行に乗り出している。
3日は大統領警護庁に阻止され、執行を断念した。高捜庁の捜査員らと、警護庁やその指揮下と推定される軍部隊が対峙(たいじ)し、小競り合いも起きた。
民主主義を封じる戒厳令を出した大統領に対する令状の執行が、力で阻止されたことになる。民主主義の土台が揺らいでいるともいえ、深刻だ。
令状の期限は6日に切れたが、7日にソウル西部地裁から再発付された。高捜庁は警察などとの合同捜査本部体制で令状の再執行に臨むという。
警察は、警護庁職員らが再び妨害すれば、身柄拘束を検討するとしているが、警護庁も一歩も引かない構えだ。再執行を試みた場合には、より激しい衝突が起きかねず、心配だ。
尹氏は先月、戒厳令の発令を謝罪した際に「法的、政治的な責任問題を回避しない」と述べていた。言葉通りの行動が求められる。
国会は昨年末に、大統領権限を代行していた韓悳洙(ハンドクス)首相の弾劾訴追案も可決した。大統領と首相が同時に職務停止となり、異例の事態に発展した。
野党が強硬な対応をとる背景には、尹氏の早期罷免を図りたい思惑があるのだろう。
最大野党「共に民主党」の李在明(イジェミョン)代表は、公職選挙法違反事件の一審で有罪となり、今年上半期中に最高裁判決が出る可能性がある。有罪が確定すれば、大統領選に出馬できなくなる。その前の大統領選を望んでいるとされる。
長引く混乱は国政の停滞を招くばかりでなく、韓国経済への信頼にも打撃を与えている。
通貨ウォンは対ドルで下落が続き、リーマン・ショックの影響を受けた2009年以来のウォン安を記録した。
与野党支持者の対立も激しくなり、韓国社会の分断は深まりが懸念される。昨年末の航空機事故の原因解明も急がねばならない。
北朝鮮メディアは、同国のミサイル総局が6日、極超音速の新型中長距離弾道ミサイルの発射実験を成功させたと報じた。
ミサイルの技術は上がっており、安全保障に脅威を与えている。日米韓の緊密な連携が欠かせない時に、北朝鮮の隣国で司令塔が不在では、心もとない。
与野党とも内向きな対立を深めることより、政治機能を正常化させ、国内の安定を図ることを第一に考えるべきだろう。