野心をむき出しにした発言が各国の反発を招いている。同盟国間に亀裂が生じ、国際社会の不安定化につながることが危惧される。

 トランプ次期米大統領が、記者会見でデンマーク領グリーンランドの購入に意欲を示し、デンマークが応じなければ高関税を課すと警告した。獲得に軍事力を行使する可能性も排除しなかった。

 グリーンランドは大部分が北極圏に位置し、軍事的にも経済安全保障上でも重要性が高い。米軍最北端の基地があり、ミサイル監視システムを配備してロシアを監視する拠点としている。

 石油や天然ガスのほか、電気自動車(EV)などの開発に必要なレアアース(希土類)の宝庫でもある。会見でトランプ氏は「経済安保のためにも米国にはグリーンランドが必要だ」と強調した。

 1期目も買収を目指して断念しただけに、改めて獲得に意欲を見せるが、同じ北大西洋条約機構(NATO)加盟国の領土に食指を伸ばし、軍事力行使も否定しないのでは軋轢(あつれき)を生む。

 デンマークのフレデリクセン首相が「売り物ではない」と反発するのは当然だ。

 NATO加盟国で、欧州連合(EU)主要国のフランスとドイツも、グリーンランドへの攻撃を容認しないと批判している。

 NATO脱退をちらつかせ、欧州加盟国に防衛費増を求めるトランプ氏と、加盟国との不協和音が広がり、国際協調路線を揺るがす事態は避けねばならない。

 トランプ氏は、カナダを米国の51番目の州にするとして経済圧力をかける考えを示すほか、太平洋と大西洋を結ぶ交通の要衝であるパナマ運河の管理権についても返還を要求している。

 前時代的な「膨張主義」と言わざるを得ない言動だ。大国が覇権拡大に走るのでは危うい。

 ロシアとウクライナの停戦を巡る自身の発言を、大幅に後退させたことも見過ごせない。

 大統領選のさなかには、就任後24時間で停戦を実現すると豪語していたものの、会見では目標を「6カ月、できればそれよりだいぶ前に終わらせたい」とした。

 停戦交渉を仲介できる見通しが立っていないためとみられるが、米国の大統領は、国際社会をリードする立場にある。発言には責任を持たねばならない。

 トランプ氏の返り咲きを前にした米企業の動きも気になる。

 米IT大手メタは、運営する交流サイト(SNS)で、第三者機関による投稿内容のファクトチェック制度を米国で廃止する。

 トランプ氏との関係悪化の要因となった事実確認の手法を転換し、自社に不利な政策変更のリスクを軽減する狙いだろう。

 だが、陰謀論や偽情報がSNSに増える恐れは拭えない。分断を深める情報の蔓延(まんえん)が心配だ。