名門医大を巡る混乱は元トップの逮捕に発展した。事件の全容と動機の解明に捜査当局は力を尽くしてもらいたい。
なぜガバナンス(組織統治)不全に陥ったかを大学側は検証し、健全化を進める必要がある。
東京女子医大の新校舎建設工事を巡り、同大に不当な報酬を支払わせて約1億1700万円の損害を与えたとして、警視庁が背任の疑いで同大元理事長の岩本絹子容疑者を逮捕した。
2023年に卒業生らが背任容疑で告発し、逮捕に至った。
18~20年に、実際には業務をしていない建築士の男性へのアドバイザー報酬を大学に支払わせ、損害を与えた疑いがある。
捜査関係者によると、岩本容疑者は不当な報酬の一部を紙袋に入れた現金で受け取り、還流させたとみられる。
建築士から直接ではなく側近を通じて受け取っていたという。金の流れを確認しづらくするため銀行口座は使わず、発覚を免れる狙いがあった可能性がある。事実なら計画的といえる。全容解明へ徹底的に捜査を進めてほしい。
岩本容疑者は、14年に発生した医療事故で患者数が激減して赤字に転落した大学の立て直しを託されて副理事長に抜てきされ、大学全体の経営を担う経営統括理事を兼任した。
人事や経理などを一元的に管理し、他部門からけん制が働かない体制とした。
自身や側近の報酬は増加させ、意に沿う人物を幹部に取り立てた。一方、大学で異論を伝えた人物がぬれぎぬを着せられ、退職を迫られたケースもあったという。
長年トップに君臨し、独裁的な体制が不正を招いたといえる。
同大の清水治理事長は会見で、岩本容疑者が「自分のための利益を図った」とし、在るべき経営の姿から離れていたと強調した。
ガバナンス不全が続いた背景には、大学の場合は、外部からも監視される一般企業と異なり、組織の規模が大きくても仕事や権限が一部に集中し、密室化しやすいことが挙げられる。
特定の人物に頼まないと仕事が進まないとなれば、すり寄る人が増えて権力が肥大化しがちだ。
4月施行の改正私立学校法で理事らの贈収賄罪が新設される。ただ、厳罰化だけで不正を防ぐことは難しいとの見方もある。
大学側が業務の透明性を高め、権限を分散することが不可欠だ。監視機能の強化も求められる。
岩本容疑者は人件費削減を推進し、大学病院の赤字は一時的に黒字に回復した。だが関係者は「『縮小均衡』にすぎず、職員に展望を与えていない」と批判する。
近年は待遇や経営状況の悪化から教職員の退職者が多く、患者数も減っている。再生へ関係者は本腰を入れてほしい。