懸念された衝突が回避されたことには安堵(あんど)する。戒厳令という強硬な手段に及んだ背景に何があったのか。一刻も早い混乱収束のために、捜査で真相を明らかにしてもらいたい。

 韓国高官犯罪捜査庁(高捜庁)や警察などの合同捜査本部は、「非常戒厳」宣言を巡り内乱を首謀した疑いなどで15日、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領を拘束した。大統領には不訴追特権があるが、内乱罪は例外で、現職大統領の拘束は初めてだ。

 尹氏は昨年12月に戒厳令を宣言し、国会議員による解除要求決議を妨害しようと軍や警察の幹部らに直接指示していた疑いがある。

 一方、尹氏側は完全否定しており、今後の捜査や、憲法裁判所で始まった弾劾審判での焦点になるとみられる。

 尹氏はこれまで、内乱罪には当たらないとして徹底抗戦し、高捜庁の出頭要請には一切応えてこなかった。今月3日に拘束令状の執行が試みられた際には、大統領警護庁を動員して阻止した。

 捜査より弾劾審判の対応を優先させたい思惑があるからだ。

 非公開の事情聴取よりも、公開で行われる弾劾審判を通じ、戒厳令に踏み切った理由を国民に訴えたかったのだろう。弾劾審判でも尹氏側は正当性を主張している。

 拘束前に撮影した映像メッセージで、尹氏は「流血の事態を防ぐため、違法捜査だが出頭に応じることにした」と強調した。捜査本部が警護庁への圧力を強め、態勢の切り崩しを図っていたことも影響したに違いない。

 拘束後の取り調べには、黙秘しているという。

 尹氏は当初、「弾劾にも捜査にも堂々と立ち向かう」としていたはずだ。一連の行動は「堂々と」と述べた自らの発言と懸け離れているように映る。

 この間、尹氏が国内対立をあおったことも批判されている。

 公邸前に集まった支持者に「皆さんと一緒にこの国を守るために最後まで闘う」とする署名入りのメッセージを配布した。

 検事総長まで務めた法律家が、法治に対して抵抗を続け、国内の対立を深めるようでは、指導者としての姿勢が疑われる。

 拘束前の映像メッセージで、尹氏は「この国では法が全て崩壊した」とも述べた。自身にもその責任があることを、謙虚に受け止めなくてはならない。

 気になるのは、国内対立の激化により、混乱が長期化する懸念があることだ。

 最近、与党「国民の力」の支持率が急上昇している。尹氏側の主張がことごとく退けられ、保守層が不満を抱えているという。革新層との分断が深まりかねない。

 米国の政権交代をはじめ、国際情勢が大きく変化する時だ。日米韓の連携を維持する上でも、韓国政治の早急な安定が求められる。