あまりに独善的な姿勢が強調された。露骨な「米国第一」主義を受けて、世界は多極化へ進み、不透明感が増すだろう。

 他国との摩擦もいとわない「どう喝外交」が始まっている。日本を含め各国は臆することなく、主体性を持ち、関係構築を図らねばならない。

 米共和党のドナルド・トランプ氏が20日、第47代米国大統領に就任した。

 トランプ大統領は、首都ワシントンの連邦議会議事堂で行われた就任式に臨み「米国の黄金時代が今、始まる」とし、「米国の完全な復活と常識の革命が始まる」と演説した。

 ◆前政権からの大転換

 就任後は次々と大統領令に署名し、第2次トランプ政権が始動した。

 際立ったのは、トランプ氏が、バイデン前大統領が築き上げた国際協調路線など、前政権の政策の大転換を相次いで表明したことだ。

 気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」からの再離脱を決めた。エネルギー分野での国家非常事態を宣言し、大量の石油とガスを活用することを強調した。電気自動車(EV)普及の義務化も撤回した。

 中国に次ぐ世界2位の温室効果ガス排出国の離脱により、世界の平均気温の上昇を産業革命前の1・5度以内に抑える目標達成は一層難しくなる。

 世界保健機関(WHO)からの脱退も決めた。他国とかけ離れた多額の拠出金などに不満を表した。最大の資金拠出国である米国の脱退は、今後の運営に支障を来す恐れがある。

 就任演説で、領土拡張に意欲を示したことも懸念される。

 デンマーク領グリーンランドの購入が視野にある。安全保障のために必要だとしており、就任前はそのための武力行使も否定しなかった。

 パナマ運河の管理権の返還や、メキシコ湾を「アメリカ湾」へ改称すると演説で言及したことも、自国の利益ばかりを考え、相手国の意向を全く尊重しない危険な発言だ。

 トランプ氏は「米国民を富ませるために外国に関税をかけ、課税する」と強調した。

 記者団にカナダとメキシコに対しては、移民対策が不十分だとして輸入品に25%の関税を2月1日から課す方針を示した。

 一方で世界からの輸入品に課す一律関税については、「準備できていない」とし、各国との貿易赤字などの状況を調べるよう関係部署に指示したという。

 保護主義が進み世界経済にマイナスにならぬよう、各国には粘り強い交渉を求めたい。

 ◆分断の深まりが心配

 期待したいのは、来月で3年となるロシアのウクライナ侵攻を終わらせることだ。

 演説では「平和を構築する仲裁者と統一者になることが、私が最も誇りに思う遺産だ」と述べた。パレスチナ自治区ガザの停戦合意は、トランプ氏の力が大きかった。

 近く、ロシアのプーチン大統領と会談すると記者団に語った。一日も早い停戦へ導いてもらいたい。そのためには北大西洋条約機構(NATO)の結束が不可欠だ。国際秩序をこれ以上、不安定にさせてはならない。

 米国内では分断がますます深まることが心配だ。

 「南部国境に国家非常事態を宣言する」と演説し、不法移民の入国を阻止するために軍隊を派遣するとした。不法移民の強制送還にも乗り出す。力ずくの送還は混乱を生じかねない。

 連邦政府が認める性別は男性と女性だけとする大統領令と、前政権が進めた多様性などの政策を終わらせる大統領令にも署名した。世界の流れに逆行することであり、LGBTQなど性的少数者らの反発は必至だ。

 2021年にトランプ氏の呼びかけに応じ支持者らが起こした、連邦議会襲撃事件の服役囚らの恩赦も発表したことは、政治の私物化ではないか。

 政権幹部は忠誠を誓うイエスマンで固めている。独裁色を強めていけば、米国の民主主義は形骸化してしまうだろう。

 軍事的な動きを強める中国や核・ミサイル開発を進める北朝鮮を念頭に、日本はバイデン前政権と、日米韓や日米豪印といった連携を緊密にした。

 多国間連携に懐疑的とされるトランプ氏は、日本側に負担増を求めてくることも予想される。石破茂首相は、日米が互いにプラスになるような関係を築くよう努めねばならない。