日本経済を好循環の軌道に乗せるには、安定した賃金の引き上げが必要となる。鍵を握るのは、中小や地方の企業の動向だ。格差を広げないためにも、大幅な賃上げを期待したい。

 経団連の十倉雅和会長と連合の芳野友子会長が会談し、経営側と労働組合が賃金水準を話し合う2025年春闘がスタートした。

 23、24年と2年続いた賃上げの勢いを維持し、賃上げの定着につなげることができるかどうかが焦点となる。

 連合の集計では、24年春闘で傘下の労組は全体で平均5・10%の高い賃上げを実現した。

 しかし、食品や燃料など物価の上昇には追い付かず、物価変動を考慮した実質賃金はマイナス基調が続く。景気をけん引する個人消費は力強さを欠いている。

 本格的な景気回復には、物価高を上回るような賃金上昇が必須だ。その必要性については経団連も認めている。

 経団連の25年春闘の指針「経営労働政策特別委員会(経労委)報告」は会員の大手企業に対し、「ベースアップ(ベア)を念頭に置いた検討を望む」と強い表現でベア実施を要請した。

 十倉会長は芳野会長との会談で、「賃上げを通じて日本経済を成長と分配の好循環に導くことは、企業の社会的責務だ」と述べた。財界トップの言葉を多くの経営者が胸に刻んでほしい。

 25年春闘で最も注目されるのは、賃上げの勢いが中小や地方の企業に波及するかどうかだ。

 24年は全体で5%を超える賃上げを達成した連合傘下労組も、中小労組に限れば4・45%にとどまっている。本県の連合新潟傘下労組は4・35%だ。

 会談で芳野会長は「中小や小規模事業者、地方経済の隅々まで賃上げが波及しなければならない」と強調した。そのために連合は今回、全体で5%以上、中小企業の労組は6%以上の賃上げを求める方針を掲げた。

 東京の大企業と地方の中小企業の賃金格差は、東京の一極集中と地方の人口流出を加速させかねない。地域格差是正のためにも各労組は奮闘してほしい。組合員だけでなく非正規労働者の賃金引き上げにも尽力してもらいたい。

 とはいえ、賃上げの余力がない中小企業は多い。欠かせないのは、人件費などの上昇分を取引価格に適正に転嫁し、それを取引先の大手企業が認めることだ。

 十倉会長は中小6%以上の目標を「非常に高い目標」と指摘した。一方で経労委報告は、働く人の7割程度を雇用する中小企業の賃上げが重要だと訴えている。

 デフレから完全脱却できるかどうか、重要な局面で迎える春闘だ。中小の賃上げを阻む商慣行の見直しを含め、経済界挙げて前向きに取り組んでもらいたい。