このままでは老後の安心が置き去りにされかねない。先送りや制度の複雑化でしのぐのではなく、将来の不安を拭う抜本的な改革へ議論を深めてもらいたい。
5年に1度となる年金制度改革で、今国会に関連法案を提出できるか見通せなくなっている。厚生労働省の当初案から徐々に後退しているためだ。
会社員らが加入する厚生年金では、パートら短時間労働者の加入に関する企業規模要件の廃止時期を巡り、二転三転している。
昨年段階では2027年10月の廃止を想定していたが、今年に入って29年10月に修正され、さらに35年10月に先延ばしになった。
進め方も細分化された。従業員数「51人以上」としている現在の要件は27年10月に「36人以上」、29年10月に「21人以上」、32年10月に「11人以上」と段階的に緩和した上で35年10月に廃止する。
保険料が労使折半のため、中小企業の経営負担に配慮したという。しかし、段階的な廃止案は複雑な上、改革の目的である厚生年金への加入拡大が遅くなる。
加入遅れから将来的に受け取る年金額が抑えられ、労働者に不利益が生じる懸念もあるだろう。
全ての国民が受け取る基礎年金(国民年金)でも、給付水準を底上げする案に慎重論がある。
厚生年金の積立金(剰余金)を基礎年金の給付に振り向けて底上げする案で、基礎年金だけに入る自営業者らが老後に受け取る年金の水準低下を防ぐ狙いがある。
基礎年金は財政状況が厳しい一方、厚生年金は堅調なためだが、これには、厚生年金の流用だとして、厚生年金加入者や企業の中に反発もある。
財源の半分は税金で賄うため兆円単位の財源が必要で、増税論につながるとの警戒感もある。
厚労省は実施するかは経済情勢を見極めるとし、29年以降に判断の先送りを決めた。
経済が成長型に移行すれば急ぐ必要はないものの、過去30年と同程度の経済状況で推移した場合は給付水準が低下すると試算されており、楽観視できない。
憂慮するのは、年金制度改革が迷走する背景に、今夏の参院選への影響を避けたい少数与党の思惑があることだ。
与党幹部には「政権が不安定な中で、無理して法案を提出する必要はない」との声もある。
バブル崩壊の影響で非正規雇用が増えた「就職氷河期世代」は、収入が不安定で蓄えも少なく、老後に低年金の生活に陥りかねないと指摘されている。
40年前後にその世代が高齢期に入ることを踏まえれば、悠長に構えてはいられない。
年金制度を見直し、安定させる貴重な機会を逃してはならない。政府・与党は責任を持ち、野党とともに国会で熟議を図るべきだ。