「今日もおれフナだった」。戦前、新潟の子どもたちが毎朝、学校で交わすあいさつがあったそうだ。朝食がない。水面で口をパクパクしている小魚に自分を重ね、水だけ飲んで登校する。級友だって腹ぺこだった

▼新潟市郷土資料館の市史読本が1932(昭和7)年当時の欠食児童の様子を記している。世界大恐慌後、冷害にも見舞われた時期だ。当時の栄小学校では欠食や食物不良が100人を超えた。食物不良とは、塩やしょうゆだけで雑炊を食べるようなひもじい状態だ

▼この年、国は学校給食に補助を出す訓令を初めて出した。これに合わせ、栄小の瀬賀虎三校長は自ら50円を、職員も50円を寄付し大学や米屋も応援した。市内初の“完全給食”の献立は「メシ、メザシ、ホウレン草、タクアン」。フナたちは、どんなにうれしかったことか

▼いま、国会では野党が学校給食や高校授業料の無償化などを求めている。政府側は既に生活保護の教育扶助などの支援があるとして、全員一律の無償化には消極的だ

▼石破茂首相は、都市も地方もともに魅力を高める「令和の日本列島改造」を唱える。目指す姿は「楽しい日本」だという。だが都会と地方では前提の財政事情が違う。その格差をどう埋めるか

▼給食を無償化している自治体は全国で3割を超える。やろうにも懐具合が許さない自治体もあるだろう。公教育の一環といえる給食の費用が住む場所で左右されるのは公平なのか。皆が「楽しい」と思えるのは、どんな国だろう。

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