世界経済の先行きに暗雲が漂う事態だ。関税引き上げは米国にも悪影響がある。貿易戦争に発展させぬよう、石破茂首相にも役割を果たしてもらいたい。

 トランプ米大統領が中国とカナダ、メキシコに関税を課す大統領令に署名した。

 中国からの輸入品には10%の追加関税を、カナダとメキシコには25%を課す。4日に発動するとし、直前まで攻防が続いた。

 トランプ氏は第1次政権で中国製品への追加関税を発動している。昨年の大統領選でも関税実施を主要な公約に掲げた。第2次政権の発足後、新たな関税措置は今回が初めてとなる。

 警戒感から3日の東京株式市場は日経平均株価の下げ幅が1000円を超えた。

 トランプ氏は乱用が社会問題化している合成麻薬「フェンタニル」や不法移民の流入を巡り、3カ国の対策不足を問題視して関税発動を決めた。

 「米国民の安全を確保するのは大統領としての義務だ」と、関税引き上げを正当化している。

 心配なのは、関税引き上げによる米国経済への悪影響だ。関税は国内産業の保護につながる一方で輸入品の価格上昇をもたらす。

 3カ国は米国にとってモノの輸入先のトップ3だ。関税措置でエネルギーや食料品などの価格が上がり、米国民を苦しませるインフレの抑制が遠のくリスクがある。

 さらに懸念されるのは、関税引き上げの応酬が続くことだ。

 関税措置に3カ国は一斉に反発し、カナダのトルドー首相は米国製品に25%の報復関税を課すと表明した。メキシコのシェインバウム大統領も関税を含む対抗措置を取るとしている。

 中国商務省は「断固として反対する」とし、世界貿易機関(WTO)に提訴する方針を示した。

 一方、大統領令は相手国が報復関税で応じれば「関税をさらに引き上げる」としている。

 報復合戦は貿易の停滞につながり、世界経済を落ち込ませる可能性がある。国同士の対立を強めることにもなりかねない。関係国には冷静な対処が求められる。

 大統領令は、不法移民などの問題の解決へ対策が取られたと判断すれば、関税を撤回するとした。関税を脅しに使うようなもので、本来はあってはならないことだ。

 カナダとメキシコには多くの日系自動車メーカーが米国向けの輸出拠点として工場を構える。日本企業にも影響は必至で、本県はじめ国内の部品メーカーなども打撃を受ける恐れがある。

 関税のターゲットが今後、日本や欧州連合(EU)などに広がる可能性も否定できない。

 石破首相は7日にトランプ氏と初の首脳会談に臨む予定だ。過度な保護主義の危うさと自由貿易の重要性をしっかり説いてほしい。