主食であるコメの供給と価格を安定させ、消費者の不安を払拭しなくてはならない。同時に、農林水産省には、農家の経営に影響を与えないよう、流通状況に目配りした運用が求められる。

 農水省はコメの価格高騰を受け、政府備蓄米の放出に向けた新制度の概要を発表した。

 従来は著しい不作に限っていたが、「円滑な流通に支障が生じる」場合にも放出を認める。1993年の大凶作をきっかけに、95年に制度化した備蓄米の運用方針の大きな転換となる。

 1年以内に放出と同量を買い戻すことを条件とし、全国農業協同組合連合会(JA全農)などの集荷業者に売り渡す運用を想定した。売り渡し価格や数量などの詳細は、今後検討するという。

 実施されれば、コメの流通量が増え、一時的な価格低下につながる。1年以内に買い戻すとしたのは、過剰な流通を防ぎ、値崩れを防ぐ狙いがある。

 安価を望む消費者と高値を期待する生産者とのバランスをどう取るか、農水省には難しいかじ取りが求められるだろう。

 コメが品薄になった昨年夏に、備蓄米の活用を求める声は上がったが、農水省は「凶作ではない」と拒んでいた。新米が出回れば価格は落ち着くと見込んだが、年が明けても高騰は続いている。

 2024年産の収穫量は前年から18万トン増えたものの、主要な集荷業者の昨年11月末時点の集荷量は17万トン減った。農水省は、品薄再来への不安や先高観を見越して、一部の業者や生産者が在庫を抱え込んでいるとみている。

 備蓄米を放出するとの姿勢を見せれば、民間が抱える在庫が出てくるという読みもあるだろう。

 コメの民間在庫を正確に把握するため、調査対象を農家や小規模な卸業者に広げることも、新制度の大きな柱だ。消費者にコメ不足という不安をあおる情報を与えぬよう、政府はコメの在庫状況を的確に発信することが欠かせない。

 JA全農県本部はこれまで8月だった仮渡し金の提示を、25年産では春に前倒しする。生産者の信頼を得て集荷率向上を図り、民間集荷業者に対抗する狙いだ。

 最大の集荷業者であるJA系統は卸の大口注文に応えていたが、24年産は集荷に苦戦した。必要量を確保できなかった卸などの業者間取引が活発になり、米価の高止まりを招いたともみられている。

 政府は食料危機を回避するため、コメや乳製品、肉類など12品目について、国内供給量が2割以上減少し、価格高騰が生じた場合を「食料供給困難事態」として、必要に応じ農家へ増産計画を提出するよう指示する方針も示した。

 異常気象や国際情勢の悪化などで、いつ食料危機に陥るか分からない。国民の食を守るため必要な対策を講じておきたい。