住民の存在を無視した無責任な暴論だ。民族浄化にもつながりかねず、緒についた停戦協議に水を差す恐れもある。到底国際社会の理解を得られるはずはなく、発言は撤回されるべきだ。
トランプ米大統領が、米国がパレスチナ自治区ガザを長期的に「所有する」と主張し、再建に取り組むと表明した。イスラエルのネタニヤフ首相と会談した後の共同記者会見で述べた。
イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘で、ガザは解体現場のようになっていると指摘し、住民をガザ域外の安全な場所に恒久的に移住させるという。再建に向け米軍の派遣も否定しなかった。
倒壊した建物や不発弾を撤去し、経済開発や雇用創出を進める復興案も語った。復興後は「世界中の人々が住むことになると思い描いている」とした。
あまりにも唐突な発言だ。パレスチナ人が応じるはずがなく、実現性があるとは思えない。ハマスは「パレスチナ人の権利を否定する無責任な発言だ」と非難した。
住民からは、1948年のイスラエル建国で、約70万人のパレスチナ人が難民となった「ナクバ(大惨事)」に重ね「第2のナクバが始まる」と嘆く声が上がった。
ガザにはその時の難民も多く住んでいる。トランプ氏は、ガザの歴史や住民の郷土への愛着を全く顧みていない。
国連のグテレス事務総長は「あらゆる形の民族浄化を回避することが重要だ」とし、反対姿勢を示した。強制的な移住は民族浄化に等しいからだ。
16カ月にも及ぶガザの戦闘では、先月19日に停戦が発効し、恒久停戦に向けた交渉が始まったばかりだ。交渉を仲介してきた米国への信頼が失われかねず、交渉の先行きが懸念される。
トランプ氏の発言は、パレスチナ国家の樹立による、イスラエルとの「2国家共存」への障害となることは明らかだ。
岩屋毅外相は6日の衆院予算委員会で「推移を見極めた上で対応を検討したい」と慎重に発言しつつも、イスラエルとパレスチナが共存する「2国家解決」を支持する日本政府の立場を強調した。
「地域の安定と平和のプロセスにとって危険だ」など、中東や中国、欧州各国でも反発が相次いだのは当然だ。国際社会は結束し、発言撤回を求めてほしい。
国際的な反発を受け、ルビオ米国務長官は、ガザ住民の移住は再建の間に「一時的」に離れるという意味だと釈明した。
トランプ氏はこれまで、デンマーク領グリーンランドの購入など、相手国の主権を無視するような発言を繰り返している。
トランプ氏は、イスラエルとハマスを恒久停戦に導き、住民がガザから離れることなく復興を図れるよう尽力してもらいたい。