障害者は健常者と同等に働くことはできないという偏見をただす画期的な司法判断だ。社会全体で差別的な取り扱いを改める契機にしていく必要がある。
聴覚障害のある女児が交通事故で死亡し、将来得られたはずの「逸失利益」が争われた損害賠償請求訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は、全労働者の賃金平均から減額せず、運転手側に計約4365万円の支払いを命じた。
判決は「健常者と同じ職場で同等に働くことが十分可能であった」とした。障害のある未成年者に健常者と同等の逸失利益を認めた判決は初めてとみられる。
運転手側は期限までに上告せず、判決は確定した。
事故は2018年、大阪市でショベルカー運転手が発作で意識を失って歩道を暴走し、聴覚支援学校から下校中だった当時11歳の井出安優香さんが死亡した。
23年の一審大阪地裁判決は「労働能力が制限されうる程度の聴覚障害があったことは否定できない」とし、全労働者の賃金平均より15%を減じ、85%とした。
これに対し大阪高裁は全額を認定した。判決理由で、減額が許されるのは「顕著な妨げとなる事由が存在する場合に限られる」という判断枠組みを示した。
減額は例外的であるべきだとする判断はこれまでと一線を画すものであり、評価できる。
これまでは障害がある未成年者が死亡した場合、逸失利益は健常者より低く算定される傾向にあり、「就労可能性がない」としてゼロと算定する判決もあった。
近年は賠償を認めても減額するケースが続き、21年に広島高裁は全盲の女子高生が後遺症を負った事故で逸失利益を8割とし、名古屋地裁は事故死した聴覚障害のある男子大学生を9割とした。
今回の判決後、女児の両親は会見で「差別だと思って訴え続けてきた」と述べていた。その思いに報いた司法のメッセージを社会全体で重く受け止めねばならない。
注目されるのは、判決が障害者を巡る社会情勢の変化や技術の進歩を踏まえたことだ。
昨年施行された改正障害者差別解消法は、障害者の希望に合わせて困り事に対応する「合理的配慮」を民間にも義務付けた。
障害者をサポートする技術の進歩は目覚ましく、音声認識アプリなどデジタル機器を活用し、他の従業員らと円滑に意思疎通を図ることも可能になっている。
判決は、女児が学年相応の言語力と学力を身に付けていたと認定し、将来の就職時には「障害を自分自身や社会全体で調整し、対応することができた」とした。
今後の同種訴訟でも今回の判断枠組みが適用されることが望まれる。理不尽な障壁を取り除き、全ての障害者が生きやすい社会を目指したい。