入念な準備で相手の好みを探り、初顔合わせは乗り切ったという印象だ。ただ課題は山積しており、先行きを見通すのは難しい。信頼を築き、双方に利益のある日米関係を目指すべきだ。

 石破茂首相とトランプ米大統領が米ワシントンのホワイトハウスで会談した。

 昨年10月に就任した石破首相と、今年1月に大統領に返り咲いたトランプ氏の初の首脳会談だ。

 会談でトランプ氏は対日貿易赤字の解消を要求し、貿易不均衡が続けば関税が選択肢になるとの考えに言及した。

 トランプ氏は中国とカナダ、メキシコに関税を課す大統領令に署名したばかりだ。日本にどう出るかが不安視されていた。

 関税に深くは踏み込まなかったが、貿易赤字に対するトランプ氏の厳しい姿勢が改めて鮮明になった。今後、関税を取引材料にして日本に厳しい要求を突き付ける可能性は否めない。

 会談後の共同記者会見で首相は関税措置について「互いの利益になることが重要だ」と述べた。トランプ政権との意思疎通に努め、的確な対応をしてほしい。

 注目されるのは、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画を巡るトランプ氏の発言だ。

 買収計画はバイデン前大統領が禁止命令を出し、トランプ氏も反対していたが、共同会見では「買収ではなく、巨額の投資をすることで合意した」と語った。

 投資の枠組みなどは不明だが、トランプ氏は近く日鉄の首脳と会い、詳細を協議するとしている。動向を注視したい。

 首相は対米投資を1兆ドル規模に増やすと表明した。米国から液化天然ガス(LNG)の対日輸出を増やすことでも合意した。

 トランプ氏の政策を意識しての提案だ。互いの経済に寄与する形での実現を目指さねばならない。

 安全保障に関しては共同声明で、中国への対処を巡り、米国による防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条が沖縄県・尖閣諸島に適用されると改めて確認した。

 日米同盟がインド太平洋の平和や繁栄の礎であり、日米韓などの同志国連携を重視する方針も掲げた。北朝鮮による拉致問題については、即時解決を実現する日本の決意を米国が支持するとした。

 いずれも日本の意向で従来の路線が確認されたことになる。他にも日本の防衛力強化を米国が「歓迎した」と共同声明に記した。

 会見ではトランプ氏が「偉大な首相になる」と持ち上げるなど、互いに称賛する場面があった。首相には国益にかなう関係をトランプ氏と構築してもらいたい。

 ただ、過激な言動も目立つトランプ氏への過度な追従はマイナス面もある。始まったばかりの第2次政権にどう対応するか。日本政府総体の外交力が問われる。