歯止めがかからない被害の拡大を憂う。個人の大切な財産が、次々とだまし取られる事態を何としても防がねばならない。官民が知恵を出し合い、有効な対策を早急に講じてもらいたい。
特殊詐欺や交流サイト(SNS)を介した投資・ロマンス詐欺の被害総額が、2024年は全国で前年比2・19倍の約2千億円に上ったことが、警察庁のまとめ(暫定値)で分かった。
特殊詐欺は約269億円(59・4%)増の約721億5千万円、投資・ロマンス詐欺は約812億8千万円(178・6%)増え、約1268億円だった。いずれも過去最悪となった。
本県では、特殊詐欺が54・7%増の8億9223万円、投資・ロマンス詐欺は140・1%増の14億3389万円となり、深刻な事態が浮き彫りとなった。
特殊詐欺の接触方法は電話が約8割で、国際電話が多いのが目立った。警察官をかたり、「口座が不正に利用されている」などとうそを言い、アプリで警察手帳や逮捕状の画像を送って信じ込ませ、振り込みを要求するという。
投資・ロマンス詐欺の特徴は、全ての振り込みでインターネットバンキングが悪用されたことだ。特殊詐欺でも500万円以上の振り込みの約7割で利用された。
ネットバンキングは、ATMより高額のやりとりができ、ネット上のみで完結する。そのため「被害者が犯人に会ったケースは聞いたことがない」と、救済活動に携わる弁護士は語る。
犯人が分からなければ、被害金の回収は難しい。訴訟を起こすことも困難で、1円も回収できないことが珍しくないという。
著名人を装った偽広告や、最近はダイレクトメッセージで接触し、LINE(ライン)に誘導する投資詐欺の手口が増えている。
SNSで投資話があった時点で警戒することが肝心だ。もうけ話を安易に信じてはならない。
見過ごせないのは、「匿名・流動型犯罪グループ」(匿流)の関与が疑われることだ。匿流は広域強盗事件でも注目が集まり、国民の体感治安を悪化させる大きな要因となっている。
警察庁は昨年4月に都道府県警が連携し特殊詐欺を広域捜査する「連合捜査班」を立ち上げたものの、摘発は「受け子」などの末端が中心で、犯行を指揮する中心人物はつかめていない。
近く導入される、捜査員が別人に成り済ます仮装身分捜査など、あらゆる手段を駆使し、匿流の犯罪を防いでもらいたい。
金融機関の協力も欠かせない。疑わしい取引を検知した場合は、速やかに口座を凍結したり、金融機関同士が迅速に情報共有したりすることが重要だ。
安全・安心な社会の構築に向け、対策を急がねばならない。