娘との再会を果たせぬまま亡くなったことが残念でならない。もはや残された時間は少ない。政府は切迫感を持ち、あらゆる手を尽くして拉致問題解決への突破口を見いださなければならない。
英国留学中に北朝鮮に拉致された有本恵子さんの父明弘さんが15日、老衰のため神戸市の自宅で死去した。96歳だった。
明弘さんの死去により、未帰国の政府認定拉致被害者の親世代で存命なのは、新潟市で拉致された横田めぐみさんの母で89歳の早紀江さんだけとなった。
恵子さんは1983年、デンマークのコペンハーゲン経由で北朝鮮に連れ去られたとされる。拉致被害者石岡亨さんの手紙が88年に札幌市の実家に届き、恵子さんも平壌にいることが判明した。
明弘さんは妻嘉代子さんとともに政府に救出を訴え続けた。
本紙の取材に何度も応じ、2023年1月のインタビュー記事では拉致問題が進展しない状況に、「政府は本気で行動してほしい」「何が何でも取り返すという気迫が感じられん」と語っていた。
23歳で拉致された娘を40年以上も待ち続けた親の胸中はいかばかりか。無念でならない。
若者と家族の未来を奪った北朝鮮の非道な行いは決して許されない。一刻も早く拉致被害者を日本に帰国させるべきだ。
嘉代子さんは20年2月に94歳で亡くなっている。共に活動を続けためぐみさんの父滋さんは20年6月に87歳で死去した。
明弘さんの死去を受けて17日に記者会見した早紀江さんは「いよいよ1人になったとむなしい思い」と述べた。今後の活動について「生きている間にできるだけのことをする」と決意を語った。
何としてもめぐみさんとの再会を実現させたい。そのために私たちもできる限りの支援をしたい。
石破茂首相は7日に行われたトランプ米大統領との初会談で、拉致問題の即時解決を実現する決意を表明し、支持を取り付けた。
1期目に行った米朝首脳会談で拉致問題を取り上げ、拉致被害者家族とも2回面会したトランプ氏を頼りに進展を図ろうとの狙いなのだろう。
15日に行われた日米韓外相会談の後に発表された共同声明には北朝鮮の完全非核化のほか、拉致問題の即時解決も盛り込まれた。
ウクライナに派兵するなどロシアとの関係を深める北朝鮮を相手に、米国や国際社会の協力を得るのは当然だ。ただ、日本の主体的な取り組みが必須であることを忘れてはならない。
拉致被害者家族会と支援団体「救う会」は16日の合同会議で、石破首相が掲げる日朝間の連絡事務所開設構想について「時間稼ぎにしかならない」と懸念を表明した。首相には、家族らに寄り添った対応をしてもらいたい。