不条理な侵攻が終結しないまま、また1年が過ぎた。こうしている間にも尊い命が無情に奪われ続けている現実に、深い憂慮を覚えざるを得ない。
戦闘が長期に及び、双方の疲弊は深刻だ。一刻も早く、公正で恒久的な終戦を実現させることが不可欠だ。
ロシアのウクライナ侵攻開始から24日で3年がたった。ロシアは2022年9月にウクライナ東部・南部4州の併合を一方的に宣言し、これまでにウクライナ国土の約2割を占領した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は今月、ウクライナ兵の戦死者は4万6千人、負傷者は38万人と明らかにした。ロシア側は22年9月以降、戦死者を公表していないが、死傷者は数十万人に達するとみられている。
両軍におびただしい犠牲が生じ、多くの民間人も巻き込まれている。戦闘をこれ以上、続けるべきではない。
◆米国主導の交渉懸念
ウクライナ軍は23年6月に反転攻勢を始めたものの、目に見える成果は得ていない。昨年8月にはロシア西部クルスク州へ越境攻撃し、一時は約1300平方キロを制圧したが、ロシアに約3分の2を奪還された。
クルスク州には、ロシア側の部隊として北朝鮮から1万1千~1万2千人ともされる兵士が派遣され、北朝鮮兵にも多数の死傷者が出ている。
東アジアにまで影響が拡大し、世界の安定が脅かされたのは由々しきことだ。深刻に受け止めなくてはならない。
核大国ロシアを相手に消耗戦を続けるウクライナでは、戦況悪化で国内に厭戦(えんせん)ムードが広がっている。
劣勢を踏まえ、ゼレンスキー氏は全領土奪還まで戦い続けるとしていた方針から、外交的手段も交えて領土回復を考える現実路線に転換した。
欧州など各国にも支援疲れが見えている。当事国のほか関係国を含め、対話による終戦協議を急ぐ必要がある。
危ぶまれるのは、トランプ米大統領の就任によって情勢が大きく変化したことだ。
米国は当事国のウクライナを招かずにロシアとの間で和平交渉に踏み切り、動きを活発化させた。交渉を背景に、ロシアのプーチン大統領は有利な条件での終戦を探る構えでいる。
見切り発車で、侵攻国側に立った和平交渉では、将来的に新たな戦闘が引き起こされる可能性が拭えない。
14年にロシアがウクライナ南部のクリミア半島を併合した後に、中途半端な戦闘凍結合意を交わしたことがロシアを増長させ、今回の侵攻を引き起こしたことからも明らかだろう。
ゼレンスキー氏が「生煮えの停戦案はロシアのわな」と警戒するのは当然だ。
トランプ氏はウクライナへの支援の見返りとして、希少な鉱物資源の供与を要求した。
ウクライナでは侵攻によって戒厳令が発令され、大統領選が禁じられているにもかかわらず、ゼレンスキー氏を「選挙を経ていない独裁者だ」などと侮辱している。
さらに「ウクライナは戦争を始めるべきではなかった」と、歴史的事実を無視する暴言まで口にしており、看過できない。
侵略戦争を仕掛けたロシアに肩入れをし、被害者に譲歩を強いるやり方は許されない。
◆日欧の団結が必要だ
ウクライナが和平で最も重視するのは自国の安全保障の確保だ。北大西洋条約機構(NATO)の加盟が最善と訴えているが、トランプ氏は「現実的ではない」と突き放している。
公正で持続的な和平には、ロシアの侵略を将来にわたって抑止することが欠かせない。NATO加盟が非現実的というのであれば、トランプ氏は代替案を示す責任がある。
トランプ氏は、プーチン氏が望めばウクライナの「全土を占領できるだろう」とも語った。
主権国家を踏みにじり、武力による領土獲得を肯定することになり、断じて認めるわけにはいかない。
バイデン前米大統領の時代はウクライナ支援で欧米の連帯が強調された。ウクライナの問題はロシアに近い欧州の安全保障にも関わるからだ。
しかし今、欧米の連帯は対立に変わりつつある。公平な和平に導くために、日欧を中心とした勢力の団結が重要だ。
日本政府には米国への粘り強い働きかけが求められる。