新潟市近郊では田起こしが進む。水が張られると、いよいよ田植えである。日が暮れて、田んぼの様子が見えなくなっても「あ、水が入ったな」と分かることがある。カエルたちが大合唱を始めるからだ

▼彼らが鳴くのはオスがメスを呼んだり、なわばりを示したりするためという。先日の本紙「まいにちふむふむ」のページが、アマガエルとトノサマガエルが登場する童話を紹介していた。宮沢賢治の「カイロ団長」だ

▼アマガエルたちが店で酒を飲んで酔っぱらう。ところが懐のお金はほんのわずか。店主のトノサマガエルは悪だくみをしていた。代金を払えないアマガエルを家来にして「カイロ団」をつくり、自ら団長になる

▼団長は家来にとてつもない重労働を課す。家来たちがふらふらになった時、王様からの新たな命令が届いた。いわく「つらい仕事をさせる際は先に自分がやってみること」。団長は自らやるはめになり…

▼難題を命じてきた相手に、心の中で「自分でやってみろよ」と言い返したことがある人も多いのでは。ウクライナ侵攻で早期の「成果」を求められたロシア軍の中でも、そんな思いを抱く向きがあるかもしれない

▼プーチン大統領は、対ナチス・ドイツ戦勝記念日の5月9日までに一定の戦果を欲しているという。そのために命をかける兵士の心情はどんなものか。隣国の市民の命を奪うことに良心の呵責(かしゃく)もあるはずだ。「こんな戦争おかしい」と、カエルのように大合唱したいと願う人もいるに違いない。

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