高校教育に関わる経済的負担の軽減や機会均等を図る目的は理解できる。とはいえ、新たな格差が生じかねず、質の高い教育をどう確保するかといった議論も足りない。合意は拙速感が拭えない。
自民党総裁の石破茂首相、公明党の斉藤鉄夫代表、日本維新の会代表の吉村洋文大阪府知事が、維新が求める高校授業料無償化と社会保険料の負担軽減策などで正式合意した。
高校の就学支援金に関し、2025年度から国公私立で年収を問わず全世帯に年11万8800円を支給する。私立に通う世帯には26年度から所得制限を撤廃し、支給上限額を現行の年39万6千円から年45万7千円に引き上げる。
高校生がいる全ての世帯の負担軽減を図ることができる。授業料の高い私立に通う家庭には、より恩恵が大きい施策だ。
ただ、私立に通う高校生の割合は都道府県でばらつきがあり、首都圏や大阪、京都などで高い傾向がある。恩恵を受ける世帯は都市部ほど多く、公平感に欠ける。
公立離れが心配だ。先行して取り組んだ大阪府では、私立に生徒が流れ、府立の定員割れが増加している。24年春入学で府立高の約半数が定員に届かなかった。
私立へ進学希望者が増えれば、公立の農業高や工業高などの専門高校にも影響があるだろう。専門高校が支える地域産業の振興は、石破政権の看板政策である地方創生の鍵でもあり、気がかりだ。
少子化を見据えて計画された公立校の統廃合が加速する恐れもある。公立の魅力を高めていくための議論が必要だ。
無償化で家庭の経済力によらずに私立を選ぶことができ、選択の幅が広がるメリットはある。一方、高所得者世帯は浮いたお金を塾代に回せるようになり、教育格差が広がるとの指摘もある。
石破首相は26日の衆院予算委員会で、「収入の多寡で教育に差がないようにする。質の高い教育を受けられることも目指していかねばならない」と述べた。
全国どこでも質の高い教育を受けられる環境をどう実現するのか、具体策が問われる。
高校無償化では25年度分に必要な経費は約1千億円とされ、安定した財源は不可欠だ。首相は、予算案衆院採決前に、その財源を示すことも明言した。
ほかに社会保険料の引き下げでは、国民医療費の総額を年間で最低4兆円削減することで、1人当たりの社会保険料負担を年間6万円引き下げるとする維新の主張を合意文書に盛り込んだ。
給食費の無償化も小学校を念頭に26年度に実現するとした。
石破政権は少数与党のため、予算成立には野党の要求をのまざるを得ない。とはいえ、財源や財政健全化の視点を欠いては、責任ある予算とはいえない。