停戦案への同意は、ウクライナが米国に歩み寄り、関係修復へ努力した成果といえるだろう。次はロシアが歩み寄る番だ。一刻も早い停戦の実現を求めたい。
ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、米ウクライナ両政府は共同声明を発表し、米国が提案したロシアとの30日間の一時停戦をウクライナが受け入れたと表明した。
ロシアとの同時実施が条件で、停戦が実現すれば、3年以上に及ぶウクライナ侵攻で初めてだ。
米国が示した一時停戦案について、ウクライナのゼレンスキー大統領は「空、海だけでなく、全ての前線が30日間の戦闘停止の対象となる」と説明した。
ゼレンスキー氏はこれまで、ロシアに再軍備や武器生産の時間を与えるとして一時停戦に否定的だったが、方針転換した。
2月末にトランプ米大統領との首脳会談が決裂してから、わずか10日余りで停戦案同意に至ったのは、ウクライナの深刻な戦況悪化を意味するものだろう。
会談が口論となり、怒ったトランプ氏がウクライナへの軍事支援の一時停止に踏み切ったことで、ロシア軍の攻勢が加速した。
ロシア西部クルスク州では、ウクライナ軍が占拠した領土の約9割をロシア軍が取り戻すなど、ウクライナの劣勢が鮮明になった。
停戦案同意を受け、米国がウクライナへの軍事支援と機密情報提供を再開したことは当然だ。関係修復したとはいえ、ウクライナを窮地に追い込んだトランプ氏の交渉手法は称賛できない。
侵攻するロシアより先に、攻め込まれたウクライナが停戦案の受け入れを迫られたことも、ウクライナには苦渋の選択に違いない。
今後、焦点となるのはロシアの動きだ。停戦案同意の発表後も、プーチン大統領は越境攻撃を受けたクルスク州全域の奪還を命じるなど、攻勢を緩めていない。
一方的に併合したウクライナ東部・南部4州からのウクライナ軍撤収や、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟放棄など掲げてきた和平交渉入りの条件も揺らがないとみられる。
トランプ氏は、一時停戦は「ロシア次第だ」とし、経済制裁や関税発動をちらつかせて譲歩を迫る構えを見せるが、大統領就任以来、ロシアにはほぼ圧力をかけておらず、成否は未知数だ。
停戦の行方は、プーチン氏の出方によって左右される。トランプ氏が公平に、仲介役としての役割を果たせるかどうか、その手腕に注目したい。
停戦案には、和平交渉に欧州も参加するべきだとするウクライナ側の主張は盛り込まれたものの、ウクライナが求めてきた「安全の保証」は確約されていない。
ウクライナがこれ以上の不利益を被らないように、欧州各国の連携とロシアへの圧力が必要だ。