停戦合意を逆行させてはならない。暴力が連鎖しないように双方は自制し、対話による恒久停戦の実現に立ち戻るべきだ。

 1月に停戦が始まったパレスチナ自治区ガザで18日、イスラエル軍が大規模空爆を実施した。

 ガザ北部から最南部ラファまでガザ全域を空爆した。イスラム組織ハマスの幹部らを標的に、爆撃は10分程度で約80カ所に及んだ。

 ガザ保健当局によると、攻撃により400人以上が死亡した。一晩の空爆で生じた犠牲者としては、2023年10月の戦闘開始以降を通じても異例の多さだ。

 ハマスが報復攻撃に踏み切れば、再び戦闘状態に陥る懸念がある。ガザの人々をまた苦しい環境に置くことがあってはならない。

 停戦合意は1月に発効し、今月1日が第1段階となる人質解放などの期限だった。その後、恒久停戦につながる第2段階への移行を協議したものの膠着(こうちゃく)していた。

 今回の空爆は、恒久停戦の議論を避け、停戦期間だけを暫定的に延長したいイスラエルが強硬手段に出たと見ていいだろう。

 イスラエルのネタニヤフ首相は大規模空爆を「始まりに過ぎない」と述べている。ハマスに人質解放を受け入れさせるため、攻撃をさらに強める恐れがある。

 ネタニヤフ氏の強硬姿勢の背景には、停戦合意に反対する極右政党の取り込みを図る必要に迫られていることがある。

 今月末までに国会で予算案の承認を得なければ内閣の解散・総選挙に追い込まれるためだ。政権維持を理由にガザを無差別に攻撃することは断じて許されない。

 ネタニヤフ氏は「人質奪還も目的としている」とするが、空爆は人質をも危険にさらす行為であり、到底、正当化できまい。

 トランプ米大統領が、ガザ停戦を実現したと誇示する一方で、ハマスが人質を解放しない場合にイスラエルが攻撃することを容認していたことも看過できない。

 後ろ盾であるトランプ氏の言動が、ネタニヤフ氏を後押ししていることは間違いないだろう。

 ただ、現在トランプ政権が最も時間と労力を割いている外交課題は、ロシアとウクライナの戦争終結に向けた和平交渉だ。

 そうした中でガザに関する米国の交渉力がそがれれば、ガザが泥沼化する懸念は払拭できない。

 大規模空爆が他の中東地域の安定に影響することも心配だ。

 ハマスに連帯するイエメンの親イラン武装組織フーシ派は、イスラエルがガザへの人道支援物資の搬入を停止してハマスに圧力をかけたとして今月、紅海などでの商船攻撃を再開した。

 これを受け米軍は報復としてイエメンを空爆している。

 武力攻撃は憎悪と不信感を増幅する。関係者には対話が和平への近道だと認識してもらいたい。