通勤時間帯の首都の地下鉄で、何の罪もない多くの人を巻き込んだ未曽有の無差別テロ事件だ。決して忘れてはならない。
後遺症に苦しんでいる人も多い。惨事を二度と起こさないために、政府は教訓を生かし、治安対策に取り組んでもらいたい。
1995年3月に、宗教団体オウム真理教による地下鉄サリン事件が起きてから20日で30年となった。東京都内の地下鉄3路線5車両でまかれた猛毒サリンのために、14人が死亡、6千人以上が重軽症を負った。
オウム真理教は地下鉄サリン事件より前に、坂本堤弁護士一家殺害事件や長野県松本市でもサリンを散布した松本サリン事件などの凶悪犯行を繰り返していた。
教団の関与を疑う声が強まる中、都心部をテロで混乱させれば、強制捜査を阻止できるとし、地下鉄にサリンをまいた。
一連の事件で、教祖だった松本智津夫元死刑囚(教祖名・麻原彰晃)ら13人が死刑、6人が無期懲役となった。
地下鉄サリン事件を事前に防げなかった原因の一つに、各警察本部の連携不足が指摘され、都道府県警が管轄区域を越えて捜査できるよう警察法が改正された。
過去に大量殺人に関与した団体の活動を制限する団体規制法なども成立した。時代や状況に即した法整備が進んだ。
深刻なのは、いまだ多くの人が心的外傷後ストレス障害(PTSD)を含めた心身の後遺症に苦しんでいることだ。
そのために離職を余儀なくされるなど、人生を大きく狂わされた人もいる。国や関係機関は、被害者のケアと追跡調査をしっかりと行ってもらいたい。
30年たち、事件を知らない人が増えている。同様の事件が起きないように、若い人たちへ事件を伝えていくことが大切だ。
地下鉄職員の夫を亡くし、被害者活動の先頭に立ち続けている高橋シズヱさんは、遺族らの手記やインタビュー動画をまとめたアーカイブをネットで公開した。
オウム真理教の事件を、特異な団体による特異な事件だとしてはならない。
凶行に及んだ幹部の大半は「まじめで優秀だった」といわれていた。こうした若者がなぜ教祖に従い、凶悪な犯行に及んだのかという疑問は残っている。
裁判では、教祖自らの口から犯行動機など事件の核心が語られることはなかった。
事件当時の信者は1万人を超えていた。多くの若者が入信したのは、社会の閉塞(へいそく)感が一因ともいわれた。現在も主流派後継団体「アレフ」など、いくつかの団体に分かれて活動している。
生きづらい社会は今も変わらない。地下鉄サリン事件を風化させてはならない。