外部の調査によって、人権意識の低さが浮き彫りになった。被害女性を追い詰めた企業の責任は極めて重い。
企業体質を根底から改め、一から出直さなければならない。
元タレント中居正広氏と女性とのトラブルに端を発するフジテレビの問題を調査した第三者委員会が、報告書を公表した。
第三者委は、女性は入社数年目のフジのアナウンサーだったとし、中居氏から受けたトラブルを「業務の延長線上における性暴力」と認定した。
中居氏と女性との間には「圧倒的な権力格差があった」とし、女性が食事の誘いを業務目的と考えるのは当然で、拒否できなかったと指弾した。
「プライベートな男女間のトラブル」と即断した港浩一社長(当時)らの認識が不適切であったことが明らかになったといえる。
第三者委が厳しく非難したのは企業体質だ。
フジは、有力取引先と良好な関係を築くため、会合で若い女性アナウンサーや社員を利用していたと指摘された。
接待に動員することが常態化しており、「上司から指示され参加を余儀なくされた」との社員の証言もあった。
番組出演者と女性社員が2人きりにさせられた事案2件と、社内セクハラ4件も確認された。報告書は「ハラスメントに寛容な体質」があったと批判した。
フジ社員が中居氏の依頼で女性に見舞金名目の現金を届けたほか、中居氏に弁護士を紹介し、番組に起用し続けたことを「口封じ」や「二次加害」と断じた。
そうした企業文化の中では、被害を受けても申告をためらわせる恐れがある。
社内には人権救済の仕組みとして複数の相談窓口が設置されていながらも、社員から信頼されていなかったという。名ばかりのコンプライアンス(法令順守)では意味がない。
トラブル対応や中居氏の出演継続は社長、専務、局長の3人の男性だけで決めていた。同質性の高い男性中心の組織構造が健全な企業統治を妨げていないか。広く社会で確認し、人権を徹底的に守る意識を改めて共有したい。
被害に遭った元アナウンサーの女性は「受けた被害は一生消えることはない」とのコメントを出した。中居氏は逃げずに、責任の重さを受け止めてほしい。
報告書公表に先立ち、日枝久取締役相談役の退任が発表されたが、表面的な刷新に過ぎないのではないかとの疑念は拭えない。
日枝氏はフジ中枢に約40年にわたり君臨した。公平性を欠いた人事があったとされ、社内には息苦しさがあったに違いない。
誰もが声を上げられる企業風土へと改革してもらいたい。