想定される被害の大きさに改めて驚く。官民を挙げて災害に強い国づくりを急がねばならない。
南海トラフ巨大地震が発生した場合、最大で29万8千人が死亡するとの新たな被害想定を政府の作業部会が発表した。
津波による犠牲が21万5千人を占める。建物被害は最大235万棟、経済被害は最大292兆円で2024年の名目GDP(国内総生産)の半分に匹敵する。
前回12年の想定で、死者は32万3千人だった。その後、減災対策に取り組んできたものの、減少は1割にとどまった。
政府が14年に対策推進基本計画で掲げた「おおむね8割減少」という目標には遠く及ばない。
地形データ見直しで、人的被害が発生しやすい深さ30センチ以上の浸水エリアが拡大した影響が大きいという。住宅の耐震化や家具の固定率など、ほかの被害軽減目標も達成できなかった。
火災対策でも、危険な密集市街地の解消割合は61%にとどまったほか、津波対策の海岸堤防の整備率も目標に届かなかった。取り組みを加速させねばならない。
避難に伴う体調悪化などで生じる災害関連死は2万6千~5万2千人と試算した。ただ、これも防げる犠牲だ。避難所環境の改善を進めたい。
想定では、全員が発災後10分で避難を開始した場合、津波による犠牲者を7割減らせるという。地震が起きたら直ちに逃げる意識を誰もが持つ必要がある。
内閣府の23年の調査で約8・5%にとどまる感震ブレーカーの設置率が100%になれば、火災による焼失棟数が半減する。
こうした対応により、被害を大幅に減らせることを広く社会で共有したい。
政府は1日に公表した国土強靱化(きょうじんか)の次期計画素案で、南海トラフ巨大地震への対応に重点的に取り組むとした。
26~30年度が対象で、自治体や民間の負担分も含めた総額が20兆円を超える規模になる。
上下水道の耐震化率の引き上げや、自治体管理の道路橋の修繕も進める。被害を最小限にするために着実に取り組んでほしい。
本県は被害が想定される31都府県に含まれず、被災地域を迅速に支援する役割が期待されている。
巨大地震が発生した際、被災自治体の要請を待たずに応援職員を即時派遣する制度で、県は三重県へ、新潟市は徳島県へ、それぞれ応援に入ることになっている。
発災時に速やかな支援ができるよう、被災が想定される自治体と十分な事前協議が必要だ。
南海トラフ巨大地震にかかわらず、災害はいつ、どこで起きるか分からない。災害への備えや、いざというときの行動など、一人一人が命を守るための対応を考えておきたい。