自由貿易の国際ルールを無視し、米国の産業保護を最優先する姿勢が鮮明になった。世界の分断を深める愚策だ。

 各国が報復措置に踏み切る可能性もある。「貿易戦争」が現実となれば、世界経済に悪影響が及ぶだろう。

 日本政府は、米国に撤回を求めるとともに、国内産業への打撃を最小限に抑えるための対策を急がなければならない。

 トランプ米大統領は、貿易相手国が米国製品に課している関税率などに基づいた「相互関税」を導入すると発表した。

 ◆市場の警戒感強まる

 全ての国・地域に追加で一律10%の関税を導入した上で個別に上乗せする。日本には計24%を課す。9日までに適用する。

 中国は34%、韓国は25%、欧州連合(EU)は20%となる。これまでに打ち出した関税措置の中でも、最も強硬なものだ。

 関税は、巨額の貿易赤字を解消するのが狙いとされ、トランプ氏は「私たちは力強く復活する」と強調した。

 経済のグローバル化で米国の製造業が衰退し、雇用が失われたことが背景にあった。

 そのため、課税対象が中国などの競合国だけではなく、日本をはじめ友好国にも向けられた。信頼関係を損なう行為だ。

 中国は相互関税に反対する談話を発表し、EUは報復措置の発動を警告した。

 報復の連鎖となり、各国が関税を課す対象を広げれば、世界経済への悪影響も大きくなり、景気が減速しかねない。

 そればかりか、米国でも輸入品の価格が上昇して、経済に打撃を与える可能性がある。

 市場では、警戒感が強まった。3日の東京株式市場の日経平均株価は急落した。終値は前日を千円近く下回り、節目の3万5千円を割り込んだ。

 比較的安全な資産とされる円を買う動きが進み、東京外国為替市場の円相場は対ドルで上昇し、一時1ドル=146円台後半で取引された。

 日本政府は米国に対し、関税引き上げの対象から日本を除外するよう申し入れた。

 トランプ氏も強硬姿勢の一方で、交渉の余地に含みを持たせており、今後適用除外を求める協議が始まりそうだ。

 トランプ氏は「関税で米国の魂を守る」とまで言い切っており、翻意させるのは容易ではないだろう。

 相互関税の思想は、トランプ政権から日本に対して相次いでいる防衛費増を求める発言とも通底している。

 日本政府は広く情報を集め、粘り強く交渉してもらいたい。

 ◆きめ細かな目配りを

 懸念されるのは国民生活へのダメージだ。

 石破茂首相は中小事業者らへの影響を見過ごさず、国民生活への影響を最小限に食い止めるよう指示した。

 政府は事業者の不安や懸念にきめ細かく対応しようと、全国に約千カ所の相談窓口を設置する。経営へのアドバイスや支援策の紹介を行う。

 そのほか、政府系金融機関から融資を受けられる要件を緩和する。実際に売り上げが減っていない段階でも、米国の関税によって打撃を受ける可能性があれば、融資を受けられるようにする方針である。

 特に中小製造業は、人手不足に加えて物価高にも見舞われ、苦しい経営を強いられている企業が多い。

 景気悪化のしわ寄せを受けやすい中小企業を下支えしようとする政府の姿勢は評価できる。国内産業や雇用への影響を徹底的に精査し、支援に万全を期してもらいたい。

 先立って発表された3月の日銀短観は代表的な指標、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数が1年ぶりに悪化した。

 トランプ政権の関税強化の対象となった鉄鋼の景況感が大幅に下振れした。25%の追加関税を課された自動車は景況感の先行きが悪化した。

 米国の関税政策に端を発した貿易摩擦に対する企業の不安を映すものだろう。

 日本経済は、高い賃上げと、円安によるインバウンド(訪日客)の消費効果などによって回復基調にあった。しかし、先行きの不透明感が一段と強まってきたと言える。

 日銀は追加利上げを行う方針を堅持しているが、相互関税という不確定要素が加わった。日本経済への影響を慎重に見極めなくてはならない。