住民投票という制度を否定するものではないとしながら、原発再稼働について投票で意思表示をしたいという直接請求への賛否は明確に示さなかった。
しかし、「効果に限界がある」という言い方は否定的に受け止めているという意味だろう。知事は賛否を示さない理由を、もっと明快に説明してもらいたい。
東京電力柏崎刈羽原発の再稼働の是非を問う県民投票条例案に対し、花角英世知事は賛成または反対の「二者択一の選択肢では、県民の多様な意見を把握できない」などとする意見を付けることを明らかにした。
公表した意見では、市民団体が約14万3千人の署名を集め、条例の制定を請求したことについて「意義を大変重く受け止める」と記している。
ただし、二者択一の選択肢では「得られる情報は限られる」として、懐疑的な姿勢をみせた。
条例案への賛否は「議会の議論なのでコメントすることはない」として明かさなかった。
条例案に付ける意見について、知事はこれまで、過去の事例を研究しているとしていた。
原発に関する住民投票条例案は2011年の東電福島第1原発事故以降、6都県議会で審議され、4県知事が賛否を示さず課題を指摘していた。
花角知事も同様のスタンスと受け止めることはできる。
しかし、知事の意思が不鮮明なため、直接請求をした市民団体が「対案も示すことなく課題だけを指摘する姿勢は公正性を欠き、誠実性が疑われる」と批判する思いも理解できる。
一方、知事は多様な意見を把握する手段を巡って、9日の記者会見で、以前から言及していた公聴会や首長との対話に加えて、県民への意識調査も挙げた。
ただし、その具体的な時期や手法、調査対象の規模は明らかにしなかった。
意識調査で多様な意見をどう受け止めるのか。住民投票に代わる手段となり得るものなのか。結果を知事がどの程度尊重するか。詳細を知りたい。
条例案は、16日からの3日間の日程で開かれる県議会臨時会で審議される。
県議会は審議を通して知事の考えが明確に伝わるよう掘り下げた議論に徹してもらいたい。
その上で住民投票の是非に適切な判断を下すことが求められる。
原発の再稼働は知事が指摘するように、地域経済や国の産業などに影響する複雑な問題だ。
原発の安全性や事故時の避難も含め、地域、個人に多様な考えがあるだろう。
意見集約にふさわしい手段は何か。県民を代表する県議には、住民の声を立脚点に審議を尽くすことを求めたい。