「船上からの景色に癒やされ、『今日一日良かったな』と言ってもらいたい」と話す作十丸の船長、五十嵐利男さん=3月上旬、長岡市の寺泊港
「船上からの景色に癒やされ、『今日一日良かったな』と言ってもらいたい」と話す作十丸の船長、五十嵐利男さん=3月上旬、長岡市の寺泊港

 長期企画「碧のシグナル」の第4シリーズ「寺泊で生きていく」は長岡市寺泊地域に密着します。漁師の魅力と苦労とは、人口減少が進む中でどのようにまちづくりを進めていくのか。地域の人たちの思いを通して考えます。(8回続きの3)

 水平線から上ったまばゆい朝日を、釣り人たちが眺める。3月上旬、長岡市の寺泊港を夜明け前に出た遊漁船「作十丸(さくじゅうまる)」(19トン)が漁場に近づくにつれ、壮大な景色が広がっていった。船長の五十嵐利男さん(79)は語る。「朝日や山を見るだけでも癒やし。遊漁船の魅力の一つじゃないかな」

 寺泊地域では現在8隻の遊漁船が運航する。この日、作十丸に乗り込んだ釣り人は10人。釣り竿がククッと動くと「おお当たってる」「いいなぁ、こっち調子悪いわ」。そんな言葉を交わし、10時間を過ごした。

 五十嵐さんは中学卒業後、漁師になった。北洋漁業などに携わった後、寺泊に戻り、父と2人で刺し網漁やはえ縄漁をしていたが、魚がたくさん取れる分、魚価は低迷していた。「まんま食っていかれない一歩手前だった」と振り返る。

 そんな具合だった1970年ごろ、父と一緒に寺泊で初めて遊漁船を始めた。父が県央地域の釣具店から工場で働く職人を相手に遊漁船をやったらどうかとアドバイスを受けたのがきっかけだった。「漁師が良ければ続けたかもしれないが、この話に乗ろうというのが父の考えだった」

■    ■

 遊漁船は稼げた。狙い通り、県央の職人らが訪れ、口コミでも広がった。定員20人で、1日に3回出す船はほとんど満員だった。「父と自分で年間5000人乗せた」という盛況ぶり。寺泊では漁師から遊漁船に乗り換える人が増えた。

港に戻り船の片付けなどを行う五十嵐利夫さん=3月10日、長岡市の寺泊漁港

 高校を出た後、遊漁船の道に入った中川貴秀さん(43)は...

残り980文字(全文:1711文字)