原発再稼働に対する意思を表明したいとの願いは退けられた。しかし署名した14万3196人をはじめ県民が納得のいく熟議が行われたとは言い難い。

 県議会の原発論議には、これまで以上に厳しい視線が注がれるだろう。重い責任を背負ったことを、全ての議員が自覚するべきである。

 県議会は18日、市民団体「柏崎刈羽原発再稼働の是非を県民投票で決める会」が花角英世知事に直接請求した県民投票条例案を、自民党などの反対多数で否決した。

 県民投票条例案の否決は2013年に続いて2回目である。

 県議会臨時会は16日に開会し、花角知事は「『賛成』『反対』の二者択一の選択肢では、県民の多様な意見を把握できないと思われる」と否定的な意見を付けて条例案を提出した。

 正副議長を除いた51人で構成する特別委員会が設置され、15人の県議が知事に質問した。

 目立ったのは、過半数を占める県議会の最大会派、自民党の慎重な姿勢だ。

 ◆課題解消に遠い議論

 「投票結果がその後の県議会の議論に影響し、自由な議論にブレーキがかかる」などと、議会との関係に懸念を示した。

 「原発の再稼働問題は高度な専門知識を要する」として、県民投票の対象とすることにも疑問を投げかけた。

 さらに「住民間で意見が分かれやすく、地域内に対立を生む可能性がある」と、地域社会の分断にも言及した。

 住民投票は間接民主制を補完すると指摘されるが、テーマによっては否定的な意見もある。

 一方、原発でひとたび事故が起きれば、住民の生命や健康、財産に深刻な影響を及ぼす。それは立地する自治体にとどまらず、広範囲で長期間続く。

 市民団体が、住民自治の主権者として、県民が再稼働に関する意思を表明する場を求めたのはそのためだ。

 署名した約14万3千人は、県内の有権者のおよそ8%に当たる。市民団体の訴えは一定の広がりを持ったと言えるだろう。

 県議会には、県民投票を巡る課題を解決する方策をもっとさまざまな角度から探ってほしかった。それこそが、県政における与野党を問わず、県議の重要な責務ではなかったか。

 県議は選挙によって県民から選ばれた存在である。しかし、だからと言って、全ての問題について白紙委任されているとまでは言い切れない。

 有権者の声に真(しん)摯(し)に耳を傾けて、政治活動に生かすのでなければ、存在意義が問われかねない。原発を巡る今後の議論を注視したい。

 ◆プロセスを明らかに

 市民団体が住民投票条例の制定を直接請求した背景には、花角知事が原発再稼働の是非を判断するまでの具体的なプロセスを明らかにしないことへの不安もあった。

 政府と電力会社、経済団体は再稼働への働きかけを強め、立地する柏崎市と刈羽村の首長は既に同意する意向を示した。

 県民の声が十分にくみ取られないまま、県も同意し、再稼働に進むのではないかとの懸念が高まった面はあるだろう。

 花角知事は臨時会での質疑で、住民投票への慎重姿勢は崩さず、「自らの結論を示した上で県民の意思を確認する」と繰り返し述べた。

 意思を確認する手法については「信を問う方法が最も明確で重い」と述べた。信を問う方法は「これから検討し、いずれ答えを出す」という。

 本会議終了後の報道陣の取材に対しても「市町村長との意見交換会や公聴会、意識調査などを検討し、県民の多様な意見を見極めていきたい」と述べるにとどまった。

 これまでの議会答弁や記者会見での発言の域を出なかったのは残念だ。

 知事には、県民の意思を確認するための具体的な手法や時期について、早急に明らかにするよう求めたい。

 今後、懸念されるのは、「信を問う」方法が、知事選とされるケースである。

 県のリーダーを決める選挙では、少子高齢化や過疎化、産業振興、医療、農業など争点が多岐にわたる。原発の再稼働問題が埋没してしまう可能性は否定できない。

 県民の意思確認は、知事選とは別に、原発に絞ってワンイシューで行われるのが望ましい。