停戦の試みは、米国へのアピールに過ぎなかったのではないか。求められているのは実効性のある停戦だ。流血を一刻も早く止めなければならない。
ウクライナ侵攻を巡り、ロシアのプーチン大統領は20日の復活祭(イースター)に合わせ、一方的にウクライナとの30時間の停戦を宣言した。侵攻地域で全ての軍事行動を停止すると発表したものの、砲撃がやむことはなかった。
ウクライナのゼレンスキー大統領もロシアが本当に攻撃を停止するなら応じるとの姿勢だったが、双方が相手の「停戦違反」を非難し合う結果となった。
停戦違反について、ウクライナ側は計2935件が確認されたとし、ロシア国防省も少なくとも4900件に上ったと主張した。
停戦を宣言したロシア側が砲撃を続けるのでは、本気度を疑う。和平に必要な信頼関係を醸成できるはずがない。
今回の停戦提案は、米国が仲介する和平交渉が難航し、いらだつトランプ米大統領が交渉に協力しなければ仲介をやめると示唆し、圧力を強めていたことが背景にあるとみられる。
トランプ氏は就任以来、和平交渉進展に意欲を見せ、3月にプーチン氏と電話会談したが、米国が提案した30日間の全面的な停戦案をロシア側は受け入れなかった。
プーチン氏は今回の30時間の停戦の宣言に際し、「ウクライナ側の反応は和平交渉をどれほど望み、参加する意思があるかどうかを示すことになる」と語った。
ゼレンスキー氏は停戦宣言後も攻撃が続いたとして「戦争長期化の理由はロシアだと証明された」と指摘した。
いずれも相手が不誠実だと訴えるものだろう。トランプ氏を意識した発言とみることもできる。
侵攻から3年以上がたっても多くの人命が失われている。国連ウクライナ人権監視団の報告書によると、ウクライナでは3月に少なくとも民間人164人が死亡し、910人が負傷した。2月と比べても犠牲が大きくなっている。
国際社会はトランプ氏による関税問題に振り回されているが、ウクライナでの戦火がやまず、死傷者が増え続けていることにもっと目を向ける必要がある。
気がかりなのは米国が提案する和平案の内容だ。
米紙は、トランプ政権がウクライナに対し、南部クリミア半島を米国がロシア領として承認し、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を認めないとする和平案を提示した模様だと報じた。
クリミアについては第1次トランプ政権下でも承認せず、政策を覆すことになる。
ロシア側の主張に沿った和平案となることは容認できない。一方的に侵攻した側が利益を得ることは許されない。