実態解明から遠のいた印象さえある。国民に誠実な説明をする気がないのか。これでは政治不信は深まるばかりだ。
自民党の派閥裏金事件を巡り、旧安倍派の参院側トップだった世耕弘成前参院幹事長(離党)が参院予算委員会の参考人招致に応じ、証言をした。
焦点となっている2022年8月の派閥幹部会合について、政治資金パーティー券の販売ノルマを超えた分の資金還流を再開する結論は出していないと否定した。
しかし旧安倍派の会計責任者だった松本淳一郎氏は今年2月、衆院予算委の参考人聴取で、いったん中止された還流の慣行が再開された経緯について、派閥幹部から求められ、22年8月の幹部会合で決まったと証言している。
参考人招致で松本氏の主張との食い違いを指摘された世耕氏は、「(幹部会合が)なんとなくの感じで終わったから認識のずれが出てきた。松本氏は混乱したのだと思う」と語った。
幹部会合には世耕氏の他、下村博文、塩谷立、西村康稔の各氏が出席していた。世耕氏は21日、記者団に「下村、西村両氏と私は現金還流は駄目だという認識だった」と語った。
名前が挙がった西村氏も、会計責任者の証言は「正確ではない」と同調するコメントを出した。
事務方に責任転嫁するかのようにも映る発言だ。
政治資金規正法違反(虚偽記入)の罪に問われた松本氏への昨年9月の東京地裁判決は「派閥会長や幹部らの判断に従わざるを得ない立場にあり、権限には限界があった」とした。
食い違いはあまりに大きい。どちらが真実を語っているか、はっきりさせねばならない。
世耕氏は、参院選の年に改選対象の議員に対しパーティー券販売分が全額還流される仕組みについても、質疑で「知らなかった」と否定した。
1998年に派閥に入り、参院幹事長まで務めた幹部でありながら本当に知らなかったのか、にわかには信じがたい。
質疑を終え、野党が「けじめにもならない」などと批判したのはもっともだ。
長く派閥を率いた森喜朗元首相に対し還流の発端を問うよう迫られても、世耕氏は「私が個人的に聞く話ではない」と拒んだ。
自民党内からも「疑惑が深まったままだ」と失望が漏れるほど真相究明に消極的な姿勢が際立つ。
一方、西村氏は裏金事件を受けた党員資格停止処分が満了し、次期衆院選公認候補予定者となる選挙区支部長への復帰が決まった。
党内でのみそぎは済んだということだろう。しかし事件の真相は、何も解明されていない。
改めて国民への説明責任を果たすよう求めたい。