物価高騰にあえぐ家計のダメージをわずかに和らげる効果はあるかもしれない。ただ、夏の参院選を見据えた場当たり的な対応との印象は否めない。

 石破茂首相は、ガソリン価格を1リットル当たり10円引き下げると表明した。物価高対策として5月22日から実施する。財源は既存の基金を活用する。

 現行の制度は、石油元売り各社に補助金を出し、レギュラーガソリン1リットル当たり185円程度になるように抑えている。

 今後はこうした目安を廃止し、定額値下げに切り替える。

 市場価格が185円を下回っても補助が適用されるため、消費者の負担は軽くなるとみられる。

 それでも、もろ手を挙げて歓迎することは難しい。

 現在、原油価格は下落傾向にあり、今月17~23日のガソリン補助金は制度開始後、初めてゼロになった。急激な円安にブレーキがかかり、さらに輸入価格が落ち着くとの見方もある。

 本来ならば、補助の効果を検証する好機と考えられるからだ。

 現行制度は2022年1月に、原油価格高騰に伴う時限的な激変緩和措置として始まったが、延長を繰り返し、専門家などから場当たり的と批判があった。

 投じた予算は計8兆円を超えている。化石燃料への補助は脱炭素化の流れに逆行するとして、制度終了を探るべきだとの声は与党内にも出ている。

 石破首相はなぜ今、新たな制度への切り替えを決めたのか。丁寧な説明が不可欠だ。

 定額値下げには不安も残る。

 今後、ガソリン価格が大幅に高騰した場合には、10円値下げしても、現行制度で目安としていた185円を上回る恐れがある。

 政府関係者は高騰の際に「補正予算で追加対策を実施する可能性がある」とするが、消費者の負担軽減が確実に見通せないのでは、経済対策として心もとない。

 ガソリン価格を巡っては、自民、公明、国民民主の3党が昨年12月、ガソリン税に1リットル当たり25円10銭上乗せされている「暫定税率」の廃止で合意している。ただし、廃止時期は未定だ。

 日本維新の会は自公との協議で、暫定税率廃止を今夏に実現するよう求めている。

 立憲民主党も物価高対策の一環として、暫定税率を7月から廃止することを目指し、関連法の改正案を衆院に提出した。

 23日の党首討論で首相は暫定税率の廃止を求められ「その場しのぎでなく、恒久的な財源の手当てを含め、真摯(しんし)な議論を重ねたい」と述べるにとどめた。長期的な視野に立ち、安定した政策を早急に示すべきだ。

 ガソリン価格は国民の生活に深く関わる。選挙目当てのアピール材料にすることは許されない。