古代ギリシャの哲学者ソクラテスは、思想の流布を通じて治安を乱した罪で死刑判決を受けた。「悪法も法なり」。そう言い残し、毒を飲んで命を絶つ。紀元前399年4月27日のこと。かくして今日は「哲学の日」とされる
▼「無知の知」はソクラテスが唱えた代表的な概念である。自分が知らないということを自覚し、己の愚かさを心得ることを思想の起点にするべきだと説く。「汝(なんじ)自身を知れ」も格言として残る。知は追究し続けるもの。思い上がりを戒める言葉として受け止めたい
▼ソクラテスは、ちまたの「賢者」らが知を過信するさまを知るに及び、無知の知を悟ったという。では、その賢者らの無知を知り、無知の知を説くソクラテスの知が、そもそも揺るぎない知であり得るか…
▼そんな思索にふける過ごし方もあるだろうか。ゴールデンウイークに入った。今年は物価高もあって巣ごもり派が多いとされる。普段は忙しい人も心静かに自分と向き合う時間を持てたらいい
▼期間の後半は4連休が控える。登山やスポーツを楽しむアウトドア派も多いだろうが、体力過信は禁物である。熱中症予防のドリンクとともに「汝自身を知れ」の言葉も携えたい。事故のない連休を
▼ちなみに、ソクラテスの妻は悪妻だったという。人類屈指の哲学者の悲哀を伝える名言がある。「セミは幸せだ。ものを言わない妻がいるから」。己のことをよく知るためには、あれこれ言ってくれる人が近くにいるのは幸せなこと。そう考えるべきか。