町のダニ16人を逮捕。そんな見出しで本紙が記事を掲載した時代があった。暴行や恐喝で逮捕した被疑者について、本文は「町のダニとして町民から嫌われており、さまざまな犯罪を起こしていることから…」と続く。氏名は呼び捨て。住所や職業と並び「前科8犯」とも書かれる

▼1970年代の記事である。推定無罪の原則はないがしろだ。人権を軽んじた報道は今なら大問題となる。本紙が被疑者の呼び捨て表記をやめて、容疑者呼称を始めたのは89年12月。1面で告知した。ちょうど昭和から平成に年号が変わった年だった

▼昭和の頃、社会の人権意識は現在よりずっと低かった。指導と称して子どもをひっぱたく教師はごろごろいた。障害がある人への偏見は根強く、露骨な男女差別がまかり通った。新潟水俣病などの公害も経済発展を優先した人権侵害だったといえる

▼めざましい高度成長で「昨日より今日、今日より明日」を実感できた昭和は、ノスタルジックな古き良き時代として思い出されがちだが、光があれば影もあった。決して後戻りしてはいけない道筋がある

▼最たるものが戦争であろう。昭和の始まりは、国際的にファシズムが台頭する中で日本が軍国主義体制を強め、日中戦争、太平洋戦争へ突き進んでいく時代に重なる

▼今年を「昭和100年」と捉えるならば、やはり誓っておかねばならない。令和をはじめこれからの世を、戦争の時代として後の世代から振り返られるものにしてはならない、ということを。

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