リスペクトはしていても、体現する機会は少ないもの。名高い悪役がその思いを伝える姿に驚いた。東京・後楽園ホールで行われた女子プロレスラー里村明衣子さん=新潟市西区出身=の引退試合。対戦したアジャコング選手である
▼試合後、マイクを握りライバルを見つめる。「俺が亡霊みたいに長年リングに上がり続けるのは、おまえに出会ったからだ。闘いは来世に持ち越しだ」。正座して両手を突き深々と頭を下げた。里村さんも同じ所作で返した
▼30年前、15歳だった柔道少女は同じ会場でデビューした。試合を重ね、アジャ選手を倒してベルトも巻いたが、2005年に所属団体が解散してしまう。翌年、仙台市でセンダイガールズプロレスリングを旗揚げした
▼東日本大震災で経営危機に陥ると、自身が代表となって若手を育て、地方から全国に展開した。米国のメジャー団体とも契約し世界で闘った
▼全てをプロレスにささげてきた生きざまを知るからだろう。引退興行にはレジェンドと呼ばれる大物や他団体の選手、男子選手も顔をそろえた。試合前にはファンが里村カラーの赤い紙テープを投げ入れマットを埋め尽くした。会場の誰もがリスペクトを表現した
▼里村さんは今後、団体代表としてプロレスに関わり続ける。目標は日本武道館進出。1万人規模の会場だ。「レスラーとして果たせなかった夢は、次のステージで必ず実現してみせる」と誓った。現役に区切りを付ける10カウントゴングは、再出発の鐘でもある。