1947年5月3日に日本国憲法が施行されてから、きょうで78年となった。戦後80年の節目の年を迎え、改めて原点を見つめたい。

 憲法が掲げる大きな原則は国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の三つだ。これらの理念の下、戦後の日本は歩みを進め、今日の社会を築いてきた。

 制定以来、一度も改正されていない憲法を、時代にそぐわないと言う人もいる。

 自民党は憲法を時代に合わせ「アップデート」しなければならないとし、石破茂首相は自衛隊の明記や緊急事態対応などの項目を挙げ、早期の憲法改正に意欲を示す。

 共同通信社が3~4月に行った世論調査でも、改憲の必要性が「ある」と回答した人は「どちらかといえば」を含め計70%に上った。

 ただ、国民の間で改憲の機運が「高まっていない」との回答は「どちらかといえば」を含め計63%になった。議論が熟しているとは言い難い。

 この機会に憲法の理念をどこまで実現できたのか考えたい。

 憲法25条は生存権を保障する。国民が誰でも、健康で文化的な最低限度の生活を送ることができる権利のことだ。

 ◆広がる子どもの貧困

 今、その権利が脅かされている子どもたちがいる。

 こども家庭庁によると、中間的な所得の半分に満たない家庭で暮らす18歳未満の割合を示す「子どもの貧困率」は2021年に11・5%だった。

 母親か父親のどちらかしかいないひとり親家庭では44・5%とさらに高い水準になる。

 ひとり親家庭や低所得世帯の子どもは、進学率が低いケースが多い。就職先の選択肢が狭まり、将来的に低収入になる「貧困の連鎖」の解消が課題だ。

 学校給食が命綱だという困窮家庭もある。民間団体の調査では、給食のない夏休み中、ひとり親家庭の34%で、子どもが1日2食以下で過ごすという。

 こうした家庭では、コメをおかゆにしてかさ増ししたり、親が1日1食に減らしたりする例もあったとされる。

 経済的な困難を抱える家庭の子どもらに無料や低額で食事を提供する「子ども食堂」は全国で、少なくとも1万カ所を超えた。支援の輪が広がることは歓迎したい。

 ただ、それだけ食べるのに困る子どもがいるとも言える。

 ◆託された思い忘れぬ

 先の大戦中にも、日本国内は厳しい食糧難に見舞われた。国家予算の70%以上が軍事費に投じられ、国民は「欲しがりません勝つまでは」を合言葉に制約された暮らしを強いられた。

 戦後、日本は荒廃から目覚ましい復興を遂げたが、現代になってもなお、多くの子どもたちが貧困の中にいる実態から目をそらしてはならない。

 人命は軽視され、日中戦争以降、戦地に送られた軍人・軍属の犠牲者は230万人に上る。空襲や原爆投下などによる民間人の犠牲は80万人といわれる。

 日本軍が侵攻したアジア各地で多くの尊い命が奪われたことも忘れてはならない。

 人々の平穏な暮らしと自由、さらに命を軽んじた戦争への反省の上で、憲法が生まれた。

 憲法前文には、全世界の国民が「平和的に生存する権利を有する」と書かれている。

 世界各地で悲惨な戦争が続く。ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの大規模攻撃で多くの人が犠牲になっている。

 日本国憲法が制定された当時、人々が期待し、目指した社会は今、実現できたのだろうか。国内外のどちらを見ても、道半ばと言わざるを得ない。

 中国が台湾に武力侵攻する台湾有事に対する懸念が高まっている。有事となれば日本への影響は大きい。

 一方、日本は近年、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有や防衛費の大幅増を決めた。

 平和憲法と逆行する動きには警戒しなければならない。

 戦後80年の今年、鎮魂の祈りをささげるとともに、かつて私たちの国が道を誤り、悲惨な結果を招いた事実を見つめ、平和や人権など憲法に託された思いと向き合っていきたい。