市街地でクマの被害に遭う不安は軽減されるだろう。ただし、クマの出没を防ぐ対策は継続しなければならない。
人里へ下りて、住宅街で餌を探す「アーバンベア(都市型のクマ)」が増えている。
アーバンベアの銃猟を自治体の判断で可能にする改正鳥獣保護管理法が成立した。クマの出没が増える秋までに施行する方針だ。
人間の生活圏に現れ、危害を及ぼす恐れが大きい動物を「危険鳥獣」と規定し、市町村長が緊急的にハンターへ銃猟を委託する仕組みである。
これまでは住宅が集まる地域などでの銃猟は原則禁止で、人に危険が迫ってから警察官職務執行法により警察官がハンターらに発砲を命じていた。
クマが建物内に長時間とどまった場合などでは、以前よりも迅速な対応が可能となる。
環境省によると、クマによる人的被害は2023年度に過去最多の219人に上り、うち6人が亡くなった。本県では死者はいなかったが、10人が被害に遭った。
近年は、人口減少で里山の利用が低下し、クマの分布域が人間の生活圏に接近しているとされる。
法改正の背景には、市街地の住民にとってもクマが差し迫った脅威になっていることがある。
気がかりなのは、銃猟を担うハンターの確保だ。
環境省は、クマ銃猟経験者は少なくとも全国で3千人と推定している。経験者を登録する「データバンク」をつくり、自治体に活用を促すという。
ただし、ハンターは高齢化が進んでいる。人材を安定して確保するには、行政が責任を持って育成しなければならない。
法改正を巡る国会の審議では、クマの過剰な捕殺につながるのではないかとの懸念も示された。
適切な判断ができるよう、自治体には野生動物に関する知識を持つ人材が必要となるだろう。
アーバンベア対策は、銃猟だけではない。
本県は昨年度、クマの出没に迅速に対応するため、新発田市などでクマの移動経路となる川沿いに人工知能(AI)を搭載したカメラを設置し、クマを検出すると市職員のスマートフォンなどに通知する補助事業を始めた。
住民にもできることはある。県鳥獣被害対策支援センターは、クマを人家に近づけないために、餌となる生ごみなどを家の周りに置かず、柿の実などは取り除くよう呼びかけている。
また、やぶを刈り取ることによって、人間の生活圏とクマの分布域との境界をはっきり分けることも有効だという。
クマは、本県の豊かな自然の象徴ともいわれている。被害を防ぐ一方、捕殺をできるだけ避ける道を探りたい。