報復のエスカレートは避けなければならない。両国には最大限の自制を求めたい。

 インド国防省は7日、パキスタン領内を攻撃したと発表した。インドメディアによると、ミサイルを使い、テロ組織の拠点9カ所を狙ったという。

 パキスタン軍によると、攻撃により子どもを含む多くの死傷者が出ている。

 パキスタン中部や、両国が領有権を争うカシミール地方のうち、パキスタンが実効支配する地域が攻撃を受けた。イスラム教礼拝所も標的となった。

 パキスタン外務省は、カシミール地方の実効支配線だけでなく既に定められている国境も越えた攻撃があったと主張した。

 同国のシャリフ首相は「卑劣な攻撃」に対する報復を表明した。インド機を撃墜したとの情報がある。インドメディアは、パキスタン軍が両国間の実効支配線を挟んでインド側に発砲したと報じた。

 インドは攻撃について、標的の選定と実行方法は「相当な自制を示した」と主張する。

 しかし、応酬が続けば、本格的な武力対立に発展しかねない。双方の冷静な対応が必要だ。

 両国関係は、カシミール地方のインド政府直轄地で4月22日に観光客ら26人が殺害されるテロがあり、対立が悪化していた。

 インドはパキスタンがテロに関与したと主張するが、パキスタンは否定している。

 テロを受けインド政府は、パキスタンへと流れるインダス川水系を一時的にせき止め水の供給を減らした。パキスタンは水が止まれば「戦争行為と見なし全力で対応する」と反発していた。

 テロ行為は断じて許されることではない。とはいえ、武力を行使したところで解決は図れない。

 隣り合う両国は、衝突を繰り返してきた。1947年からの3次にわたる戦争だけではない。

 2016年には、国境地帯で砲撃し合う状態に陥った。19年には戦闘機の交戦に発展した。

 懸念されるのは両国が核保有国である点だ。

 緊張の高まりは、南アジアにとどまらず、国際情勢を大いに揺るがす危険をはらむ。

 国連のグテレス事務総長が、軍事衝突は「許容できない」と懸念を示すのは当然だ。

 トランプ米大統領は「できるだけ早く終わることを願う」と話すにとどまった。国際協調に後ろ向きなトランプ氏による仲介への積極的な関与は当てにできない。

 日本とインドは、5日に防衛相会談を行い、国際ルールを重視する日印が国際秩序の維持に貢献する姿勢をアピールしたばかりだ。

 南アジア情勢の不安定化は日本にも影響する。日本政府は両国に対し、対話による解決を働きかけねばならない。