子どもの頃に見たチャールトン・ヘストンさん主演のアメリカ映画「猿の惑星」のラストシーンは、衝撃的だった。ヘストンさんらが演じる宇宙飛行士は、猿が人間を奴隷のように扱い支配する、恐ろしい星に降り立った

▼数々の苦難の末、自由の女神像に遭遇し、愕然(がくぜん)とする。そこは未来の地球だったのだ。その後シリーズ化した「猿の惑星」の第1弾であり、記憶に残っている方も多かろう

▼いま思うと、自由なき世界を描いた最後に、自由の女神像を登場させたアイロニーに脱帽する。半ば砂に埋もれた女神像の無残な姿は、自由がなくなった世界で無用になった悲哀を表していたのだろうか

▼ニューヨークの港に立つ女神像は言わずと知れた、自由と民主主義の国アメリカの象徴である。だけど映画のように、現在のアメリカにとってはもはや無用になったのだろうか。「返還せよ」とフランスの政治家が求めている

▼女神像は合衆国独立100年を記念してフランスが寄贈し、1886年に完成した。返還を主張した政治家は、もはやアメリカは像を贈った際の価値観を体現していないと訴える。異なる意見を排除するなど、強硬な姿勢が目立つトランプ大統領を念頭に置いている

▼女神像の正式名称は「世界を照らす自由」という。いつまでも揺るぎなく立ち続けて大切な自由を守り、自由のない国々にも光を注いでほしい。そのためにもアメリカは、自由と民主主義国家のリーダーとして築き上げてきた誇りを失ってはならない。

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