芸事であれ、スポーツであれ、客からお金をもらって技を披露する世界には、険しい道が待つ。「親の死に目に会えぬ」ともいう。覚悟を胸に、あまたのスターや名選手が精進を重ねた
▼何よりも舞台や試合を優先させ、私生活をないがしろにする。いちずなプロ意識の下、芸のためなら女房も泣かす的な生き方が長く幅を利かせてきた。美談や武勇伝として語られることもあった
▼今春の叙勲で旭日小綬章を受けた元阪神のランディ・バースさんは現役時代の1988年5月14日、長男の体調不良で緊急帰国した。息子に寄り添っていたいという父の切なる思いは、ファンの一部には「わがまま」と映った。その他のトラブルもあり、バースさんは失意のまま退団することになる
▼米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手が妻の出産に伴い一時戦列を離れ、話題になった。「父親リスト」という制度で、出産に立ち会う選手のために2011年に導入された。既にほかの日本人選手も取得している
▼大リーグでは、仕事と家庭を両立させる環境が整っている。妻子の急病などに対応する「家族緊急リスト」や、親の死に目に駆けつけることができる「忌引リスト」もある。日本のプロスポーツ界でも一考に値しそうだ
▼「家庭より仕事」の風潮は性別による役割の固定化にもつながってきた。バースさんがユニホームを脱いでから37年がたつ。今が旬の超人気選手の「産休」取得は、人生において何を大切にするべきかを私たちに教えている。