経済規模が最大の米国と2位の中国の激しい対立は、両国だけでなく、世界経済に深刻な影響を及ぼす。さらに歩み寄り、緊張を緩和するよう求めたい。
米中両国は高官協議で合意し、互いに関税を115%引き下げ、米国の対中関税を30%、中国の対米関税を10%とした。
引き下げ幅のうち24%は90日間の一時停止措置で、両国は話し合いを継続する。
トランプ米大統領は中国の習近平国家主席との電話会談に意欲を示す。首脳同士の直接対話で、交渉を円滑に進めてもらいたい。
合意を受け、日米で株価が大きく値を上げた。今回の合意は、経済悪化に対する市場の警戒感を一定程度和らげたといえよう。
第2次トランプ政権は巨額の対中貿易赤字の解消などを訴え、中国からの輸入品に対する関税率を引き上げてきた。
4月に米国が相互関税を発表すると、中国も対抗し、一段と応酬が激化した。米国は145%、中国は125%の関税を互いに課した。大国同士の報復合戦は、異常事態と言わざるを得ない。
今回の合意の背景には、両国の経済が大きなダメージを受けたことがある。
米国の金融市場では一時、米国株式や米ドル、米国債が売られる「米国売り」が顕在化した。安価な中国製品が輸入できなくなり、価格高騰や商品の不足を招く懸念が高まっていた。
中国では、輸出に依存する工場の生産停止や失業増加のリスクに直面した。4月の米国向け輸出額は前年同月比で約2割減少、輸入額も1割以上減った。貿易はさらに縮小する恐れがあった。
相互関税の弊害は、発動当初から指摘されていた。自由貿易のルールを無視し、米国の産業保護を優先したトランプ氏には、重い責任がある。
気がかりなのは、日米交渉への影響である。
日米両国は今後、閣僚級の通商交渉を集中的に開く。日本政府内には6月の先進7カ国首脳会議(G7サミット)に合わせて日米首脳間で高関税の回避に合意し、7月の参院選で石破茂政権の実績としたい意見が根強いとされる。
石破首相は日米関税交渉について「10%なら良いと言うわけにはいかない」と強調し、撤廃が合意の条件との考えを示している。
一方、トランプ氏は10%を関税の最低水準にするという意向である。実際に対中国でも、これに先立つ対英国でも、10%以上の関税を維持した。
その上で、一段の市場開放を求めたことも見逃せない。
日米双方の主張の隔たりは一層明らかになり、交渉は厳しさを増したといえよう。米中、米英の交渉経過や合意内容を詳細に分析し、活路を見いだしたい。