「空(くう)を道とし、道を空とみる」。剣豪・宮本武蔵の言とされる。「有るところを知って無きところを知る。これすなわち空なり」とも解説する。執着しない心のあり方を説いたのだろうか。達人が到達した境地に思いを巡らす

▼柏崎市の桜井雅浩市長も達人のごとく、容易に理解し難い境地に達しているのかと思えてしまう。原発立地地域の首長らによる都内の会合で、原子力規制委員会の安全審査に合格した原発に、6カ月の有効期限を設けるという私案を提起した

▼期限を過ぎれば、地元同意がなくても電力事業者の判断で再稼働できるようにするという。柏崎刈羽原発の再稼働議論を進めたい信念は伝わるが、法の趣旨にそぐわないと国の担当者にたしなめられた

▼市長は以前、花角英世知事が屋内退避施設の整備や自然災害時の協力を東京電力に求めた点について、合理性を欠く要望なら突っぱねていいと東電社長に助言したこともある

▼原発問題とは長らく最前線で向き合ってきた自負があるだろう。条件付き再稼働容認を掲げ、市長選を三度制してきてもいる。地元同意を巡る知事の慎重な態度に業を煮やしているのは分かるが、前のめりにすぎないか。これほどまでせかすモチベーションは何なのか

▼再稼働できる原発を動かさず火力発電に頼る「世界で恥ずべき現状」は、一刻も早く解消しなければならないと語ってきた。国のエネルギー政策を重んじるのは結構なことだが、住民と同じ目線でいてほしいと凡人は思うのだが。

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