組織の独立性が保障されるのか、現状では懸念が残る。参院では法案修正も視野に、審議を尽くさなければならない。

 日本学術会議を特殊法人に移行させる法案が衆院を通過した。自民、公明、日本維新の会などの各党が賛成した。

 法案は、「国の特別機関」としてきた学術会議を2026年10月に国から切り離し、特殊法人にするとしている。首相が新会員を任命する現行の方式も、学術会議総会で議決する形に変える。

 一方で、首相任命の監事や評価委員を新設し、業務や財務の監査などをする。会員選考には外部有識者からなる「選定助言委員会」が意見を述べるともしており、政府が介入できるようにしたという印象は否めない。

 学術会議の組織見直しの議論は、20年に当時の菅義偉首相が、学術会議が推薦した新会員候補者6人の任命を拒否したことを発端に浮上した。

 6人は安全保障関連法を批判するなど、政権が重視する政策に異を唱えていた。

 衆院の審議では、組織見直しを担当する坂井学国家公安委員長が「学術会議の独立性や自律性を抜本的に高めるための法案だ」などと説明してきた。

 だが、法案に反対する野党議員が「排除したい学者が選別され、任命拒否と同じことが行われる」と批判した。政府がいまだに任命拒否の理由を説明しない中、法案の必要性が十分解明されていないとの声も上がった。

 学術会議側も法案について「自主性・独立性が充足されておらず、むしろ独立性の阻害が意図されているのではないか」と、声明を出している。

 衆院の審議で、そうした不安が解消されたというには程遠い。

 学術会議は1949年、科学者が政府と一体となって戦争に加担した歴史への反省を踏まえて発足し、政策提言などをしてきた。学問の自由が活動の根幹にある。

 独立性を脅かすような法が成立すれば、政治の意向に沿った研究が求められる恐れがある。

 現に、これまで軍事研究に慎重な姿勢を取ってきた学術会議に対し、法案に賛成した維新の議員は「今後は大いに防衛技術の研究に貢献していただきたい」などと発言している。

 研究に対する政治の介入を危惧させる内容で看過し難い。

 法案審議は参院に移る。立憲民主党は修正案の提出を検討しているが、野党間でまとまる見通しは立たず、今国会で修正なく成立する公算が大きくなっている。

 組織見直しは、憲法で保障された学問の自由にも関わる問題だ。学術会議や国民の懸念を置き去りにして成立を急げば、将来に禍根を残す。参院での各党の熟議が求められる。