いたずら盛りの小学生を育てる親の立場としては、とても怖い話題だった。「いす引き」の危険性を伝えた本紙生活面の記事だ。子どもに見せると、思った以上に真剣に読んでいた

▼取り上げられていたのは、岐阜県の車いすバスケットボールの男子選手だ。高校3年生の時、教室で座ろうとした際に、後ろの女子生徒がふざけていすを引いた。机の角で背中を強く打って、尻から転倒。脊髄を損傷し、下半身にまひが残った

▼新潟市でも昨秋、男子中学生が同級生にいすを引かれて負傷する事案があった。今も日常生活に支障があるという。いす引きによるけがは、いすがあると思って力が抜けた無防備な状態である上、尻もちの時に打つ「仙骨」周辺に筋肉が少なく、治りにくいそうだ

▼学校管理下で起きた事故に対し、医療費などを給付する日本スポーツ振興センターがまとめた死亡・障害事例のデータベースによると、2005~23年度にいす引きなどで障害が残った事例への給付は8件あった。子どもだけではない。勤務先で上司にいすを引かれて運動障害が残ったとして、鳥取市の30代女性が損害賠償を求めて提訴した例もある

▼いす引きは、被害者はもちろん加害者も、人生が一変しかねない危うさをはらむ。面白半分では済まされない

▼その怖さを認識していれば、決してやろうとは思わないはずだ。家庭でも学校でも繰り返し注意を呼びかけ続けることが、きっと一番の抑止力になる。これ以上、傷つく人を増やしたくない。

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