上越市の山深い地に暮らす女性から手紙が届いた。豪雪地特有の春の空気について書いた先月の小欄について、感想を寄せていただいた。便せんを手にし、貧相な猫背が思わず伸びた

▼女性は昨年の秋に脚を骨折し、入院などで自宅をひと冬留守にしていたという。この春、7カ月ぶりに帰宅できたが、けがや年齢のこともあり「体力、気力の衰え、雪に対する不安が頭から離れず、気持ちがネガティブになっていました」と打ち明ける

▼コラムを読み「前向きになれました」とつづっている。日々を丁寧に暮らしてこられたのだろう。端正な手書きの文字と文面から伝わってくる。「過疎地ですが大好きな自然の中でまた頑張ろうという思いをもらいました」。この仕事をしていて、これほどうれしいことはない

▼登山に関する著書も多いイラストレーターの鈴木みきさんは、山梨県の山の麓に居を構えていた頃の暮らしについて、エッセーに書いている。季節ごとに風が山の便りを運んできたという

▼例えばこんな便り。1月「スカッと晴れた青空に小雪を舞わせる」。4月「太陽のにおい、土のにおい」。便りを感じるとそわそわし、誘われるまま山に行きたくなったという

▼手紙の女性は住んでいる地について、冬は日本海の寒風が吹き付ける豪雪地だが「夏は見晴らしが良くうれしい」と少し誇らしげだった。女性もきっと、厳しくとも豊かな風の便りをずっと受け取ってきたのだろう。お裾分けしてもらった気分で手紙を読み返す。

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