恭順の意を示さない大学側への露骨な圧力であり、留学生の排除はあってはならない。米国にも損失を与える恐れがあることを、米政権は強く自覚してほしい。
トランプ米政権が、全米屈指の有名私立大であるハーバード大に対し、反米的な活動を容認したとして、留学生を受け入れる資格を取り消す決定をした。
ハーバード大は留学生を入学させられず、在籍中の留学生は転校しなければ米国での滞在資格を失うと、政権側は主張している。
ハーバード大には140カ国以上の留学生約6800人が在籍し、うち日本人の学生と研究者は260人いる。
世界的な研究者が集まり、頭脳が集積する大学だ。学術、科学技術の発展に果たす役割は大きく、米政権の方針は見過ごせない。
大学側は、受け入れ資格の回復を求めて政権を提訴し、米ボストンの連邦地裁は資格取り消し措置の一時差し止めを下した。
しかし沈静化の兆しは見えない。トランプ政権は新たに、学生ビザ取得に必要な面接の新規予約の一時停止に踏み切り、ハーバード大以外の大学にも痛手となりかねない事態に陥っている。
大学留学に必要なビザの発給が遅れれば、日本を含む各国の留学希望者に影響する。米国留学の敬遠につながり、世界最高水準を誇る米国の学術や科学技術の後退を招くことも懸念される。
トランプ大統領はその後、ハーバード大について、全学生の約27%を占める留学生の割合を15%程度に制限すべきだとも発言した。米国人学生の入学を優先すべきだとの主張は、朝令暮改のように聞こえ、混乱させる。
ハーバード大と政権の対立は、パレスチナ自治区ガザでの戦闘を巡り、イスラエルに抗議する学生デモの舞台となった大学が、政権の方針を拒んだことが発端だ。
トランプ氏は1月の就任直後に、反ユダヤ主義的な行動を取った留学生の国外追放を可能とする大統領令に署名するなど厳しい目を向け、大学には学生らの取り締まり強化を求めていた。
有名校コロンビア大のように、要望を受け入れてデモ規制を強化する方針を策定した大学とは対照的に、ハーバード大は「自治の侵害だ」として要求を拒否した。
政権はハーバード大をエリート層の代表格と見なして敵視し、徹底的に非難している。補助金凍結などで締め付け、留学生の受け入れ資格を回復したければ、抗議デモに参加した留学生らの情報を提供するよう主張している。
許認可や補助金を盾に、従わなければ報復するというのでは、公権力の乱用にほかならない。
大学の自治や学生らの信条を国家で統制しようとするトランプ政権の姿勢は、とても民主主義と呼べるものではない。